第28話 先生の噂(2)
「ゆうりが噂? 珍しい。どんな話?」
「うん……」
ゆうりはクラスメイトと話す事はあっても、特別仲が良い生徒は真以外にはいない。
どこで噂話を聴いたのだろう。
真はゆうりが話し始めるのを黙って待った。
「信じ難いけど、呼続先生が、
ごくん、と噛み切れていない鶏の塊が喉で詰まり、慌てて喉を押さえる。ゆうりが急いで自分の紙コップに入っている水を差し出してきたので、真は勢いよくその水を全部飲み干した。
じわじわと言われた台詞は脳内で理解させられ、思わず唾を飛ばす勢いで聞き返した。
「……え!?」
「あ、あくまで噂ね。根拠もないし……クラスの子が話してるの聞いただけだよ。女の子側が誰なのかも知らないし……」
「あの人、女子生徒なんかに手を出す程、女に困ってないでしょ……」
ないない、と真が雑に手を振って否定すると、ゆうりは小さく笑った。
けれど、またすぐに暗い表情で呟く。
「……でも所謂、ロリコンかも……」
「……」
引き攣った顔の二人の間に沈黙が落ちる。
真の脳裏に呼続の笑顔が浮かんだ。
初めて顔を合わせた時の、お綺麗な微笑だ。
あの顔で迫られたら、思春期の女子なんてひとたまりもないだろう。
次の瞬間、別の表情が真の脳裏を過った。
呪いの話をした時の恍惚とした笑みだった。
艶やかな美声で、真には理解できないオカルトの妄想で盛り上がっていたのを思い出した。
真は瞬時に冷静になり、スンとした真顔でハッキリと告げた。
「いや、ない。」
「え……?」
「あの先生はそういうタイプの変態じゃない」
「な、なんで解るの?」
(別のタイプの変態だって知ったから……)
はっきりとした理由は言えないまま、ただ『呼続先生はロリコンではない』という事だけをもう一度キッパリと言い切った。
ゆうりはきょとんと、不思議そうな顔をしたが、「ふぅん」と小さく言っただけだった。
真もゆうりも、呼続に興味はない。
ただのくだらない噂話だ。話しはそれで終わりだった。
「そういえば真、結局どんな夢を見てるの?」
「ん? ああ……」
「話すの、嫌じゃなければ」
おずおずと切り出された途端、夢の切れ端が脳裏を過ぎる。ずう、と胃の辺りを冷たいものが渦巻いているように感じた。満腹の時とは別の不快感だ。
「嫌な訳じゃないけど……」
ゆうりにそう答えたが、どう話すべきか正直なところ、迷った。ただの日常の話題の一つとして提供するには、真は夢に生活を侵食され過ぎている。
暫く口を閉じて考えていたが、真は頭の整理をしながら話し始めた。
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