第26話 ”おまじない屋さん”の噂(2)


「あ、それ先輩からきいた!」

「……なにそれ?」


 初めて耳にする名前に、真は首を傾げた。

 屋号があるならば、店なのだろうか。つまり、おまじないを売っている店という事になる。


 想像がつかずに真は大人しく説明を待った。

 噂好きのクラスメイトが、“おまじない屋さん”を知らない真の事を嬉しそうに見る。


「伏見さん知らない?」

「知らない。なに? 新しいお店?」

「新しいっていうか……」


 やけに嬉しそうに、弾んだ声だ。


 他の生徒はもう存在を知っているのだろうか。

 真がこっそり周囲に視線を巡らすと、聞き耳を立てていそうなクラスメイトも多い。思った程認知度は高くないようだった。


「色んな土地をぐるぐる回ってるお店なんだけど、今は目井澤に来てるみたい。占いとか凄く当たるんだって! 物も売ってるし、占い中心って訳じゃないみたいだけど」


 なんだか胡散臭いな、と真は素直に思った。


 占いができて、物を売っているという台詞に、真の脳裏でいつか聞いたような悪徳商法のイメージが浮かぶ。


(あなたは呪われているから、この数珠を十万円で買いなさい。じゃないと死にますよ! みたいな……)


「あとさ、占いもだけど、めっちゃ! めっっちゃ! イケメンらしいよ! モデルみたいに綺麗な顔してるんだって」

「イケメン……」


 彼女のハイテンションとは裏腹に、真の顔が大きく歪んだ。


 それに気付かずに“おまじない屋さん”の話で周囲は盛り上がっている。

 どんな顔か、会った事はあるか、先輩が、という単語を耳が無意識に聞き流す。


 イケメンと聞いて、真の脳裏には真っ先に呼続の顔が浮かんだ。

 彼の印象は余りにも強烈で、忘れようにも暫く忘れられないだろう。


(校内にあのレベルの顔がいるのに、まだ顔の良い男が見たいかぁ……)


 保健室に行けば見放題だ。もしかしたら真のように呼続の顔を知らない生徒もいるだろうが。


 真は周囲にバレないように小さく息を吐いて、そっと話題から逃れるように素早く着替えを終えた。

 何にせよ、自分とは関係ない話題になってくれて良かったと思った。


「“おまじない屋さん”に相談すると、何でも叶えてくれるんだって」


 妙に、その言葉だけは頭に残った。


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