第24話 プレゼント(2)


「わ……かわいい!!」


 真は思わず高い声を出してはしゃいだ。


 箱の中には、ゴールドの華奢なチェーンのネックレスが入っていた。小さな花のモチーフから、控えめで愛らしい印象を受ける。


 白い小箱の中で、それはキラキラと光を反射して輝いていた。


「ネックレス?」

「そう。この花はね、百合の花だよ」

「これ百合なんだ! でも百合の花って、なんか上品なイメージっていうか……私には似合わなくないかな?」

「そんな事ない。真にぴったりの花だよ」


 ハッキリと断言したゆうりの顔は真剣そのものだった。そんな自分に気付いたのか、すぐに照れて表情を緩める。


 百合の花と言われたそれは、デフォルメされた小ぶりのモチーフだからか、本来の華やかな印象より随分可愛らしく見える。

 小さな花に細い茎と葉もあしらわれており、悪目立ちする事もなさそうだった。


 真は綺麗なネックレスに浮かれ、早速それを箱から出した。丁寧に持ち上げると、窺うようにゆうりを見上げる。


「今つけていい?」

「うん。チェーン長いから、制服の下に付けててもバレないと思う。後ろ向いて。…着けてあげる」


 ゆうりの言葉に素直に頷いて、差し出された手の平にネックレスを託す。

 くるりと背を向けて、ゆうりがネックレスを着けやすいように、真は後ろ髪を持ち上げて軽く俯いた。


 ゆうりは真の顎の下に手を伸ばし、首の後ろまで留め具をもってくると、そのままネックレスをつけた。

 真は首元に金属の冷たさを感じ、次いでふと違和感に気付いた。


「あれ? ゆうり香水変えた?」

「うん、コロンだよ。キツくない?」

「良い匂い!」


 真は心のままにそう言うと、振り返って笑みを浮かべた。

 近付いた際にふと微かに香る花の香りは、ゆうりにとても似合っていた。いつもより少し華やかな匂いだが、派手ではなく、清らかな水辺のような香りにも感じる。確か、以前使っていた香水はもっと石鹸のような匂いだった。


 真は制汗剤くらいしか付けない為、香水の良し悪しは解らないが、石鹸の香りよりも今の香りの方がゆうりに似合っているように感じた。


「ふふん、ゆうりちゃん良い匂いですな〜〜」

「ちょっと真、やめてよぉ」


 真がふざけてわざと音をたてる程深く香りを吸い込むと、ゆうりは笑って手を真から遠ざけた。本気で嫌がっていない事は互いにわかり切っている。ただのおふざけだった。


「……ね、似合う?」


 自分の鎖骨の辺りを指して、真は照れながらも笑った。


 鎖骨の少し下の辺りにトップがあり、チェーンにはまだゆとりがある。ゆうりの言葉通り、セーラー服を着ても隠れるだろう長さだった。


 ゆうりは真の首元から顔を見て、どこか眩しそうに微笑んだ。


「うん。似合ってる。……凄く素敵だよ」

「ありがとう、ゆうり! 大事にするね!」


 真が破顔してそう言った所で、授業開始を告げる鐘が大きく鳴った。

 二人は同時に「あ、」と小さく呟いて、互いの顔を見合わせる。


 ゆうりが数拍、何か考える仕草で上を向いた。すぐに鐘が鳴りやみ、それと同時ににっこりとどこかわざとらしい笑みを浮かべた。


「真は保健室帰りだからゆっくり行きましょうね」

「! はぁい、わざわざ付き添いありがとうございまーす」


 ゆうりの言葉の意図を察した真が合わせてかしこまると、溜らず二人で声を出して笑った。


 体育教師への言い訳が決まった。


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