第23話 プレゼント
真が足早に教室に戻ると、室内には既に誰の姿もなかった。
着替えの為に全員更衣室に向かったのだろう。今から着替えるのならば四限は間違いなく遅刻だ。
ロッカーからジャージを取り、渡り廊下を渡って更衣室へと向かう。
誰もいないとは思いつつも、念のため真は軽く扉を叩いた。
返事を待たずにドアを開けると、無人の筈の室内で、ゆうりが長い黒髪を括っていた。
「わ! びっくりした……ゆうり、もしかして待っててくれたの?」
「うん。真、早退しないなら体育は出るかなって。だからそろそろ戻ってくるんじゃないかと思ってたの」
「そうだったんだ! ありがとう!」
「待っててよかった。体育はどうするの? 一応見学する?」
「んや、出るよ」
「そう言うと思った」
肩を竦めて笑いながら、ゆうりがまだ心配しているのが真にはわかった。
真は空いているロッカーに制服を押し込み、手早く着替える。ゆうりの視線を感じた。
本当に体調が回復したのか、観察しているようだ。
それを察した真は、殊更明るく笑って見せた。
「だーいじょうぶ。薬も飲んだし。それに今日バレーじゃん、久しぶりだから絶対やりたい!」
「そう? 真が大丈夫ならいいけど……」
「ゆうり、心配しすぎ!」
真がそう言って軽く小突くと、ゆうりは少し安心したようだった。微笑と共に肯首が返ってきた。
時計を見ると、授業開始まで五分もない。保健室帰りを強調すれば誤魔化せるだろうか、と考えながら、真は切り揃えた前髪を軽く手で払った。
「お待たせ。行こっ!」
「あ、待って」
ゆうりが何かに気付いた様子で、慌てて自分の荷物を入れているロッカーを漁り始めた。真はもう一度時計を見てきょとんとし、けれど言われた通り大人しく待ってみる。
(遅刻しそうなのに、どうしたんだろ。珍しい……)
授業より優先する程、今このタイミングでなくてはいけないのだろうか。鞄から何が出て来るのか興味が湧いて、覗き込むように前のめりになった。
ゆうりが鞄から何かを持ったまま、掌を開いて見せてきた。
片手で持てる程の包装された小さな箱だ。
差し出されたが、意図がわからないまま素直に「なに?」と首を捻る。
「真に、プレゼント」
「え? 誕生日じゃないよ?」
「知ってるよ」
プレゼントと言えば誕生日だと思った真は思わずそう言ったが、ゆうりが知らない筈がない。突然のそれに、真は顔の前でブンブン手を振って受け取り拒否を示した。
けれど、それを見てもゆうりは手を引っこめる様子はない。
眉を下げて困ってしまった真に、ゆうりは僅かに照れたようにはにかんだ。
「何でもないけど、あげたかったの。真が元気になったら嬉しいなって、思って。……開けてみて」
「う、うん……何が入ってるの?」
自分まで照れてしまいそうになりながら、真はおずおずと小箱を受け取った。
小さな正方形の箱は、ピンクの包装紙で包まれ赤いリボンが結んであった。躊躇いながらもリボンを解き、包装紙を開いていく。
真は緊張から表情を険しくして、なるべく丁寧にテープを剥がす。真はいつも包装紙を破いてしまうのだ。綺麗なラッピングは、杜撰に扱うのは躊躇われた。何より、目の前でゆうりが笑みを浮かべて真を見ている。
何とか破らずに包装紙を開くと、中からは真っ白な小箱が出てきた。
中身を想像できないまま、真はそっと蓋を持ち上げた。
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