第22話 懲りない人
「授業終わったね。次の授業は?」
「確か、体育です」
「体育かぁ。できそう?」
「もう元気なんで、むしろやりたいです」
「そっか。じゃあ遅れても大丈夫なように連絡するから、少し待って」
呼続は一言断ると保健室の内線から電話をかけ、真の氏名と今から授業に戻る事を丁寧に伝えた。
真はスカートをパタパタと叩き、折り目がないか軽く確認する。濃いネイビーのセーラー服を引っ張ったりして見てみると、スカートのプリーツが少し乱れているが、この程度なら特に問題なさそうだ。
「じゃあ、教室に戻って。走らないように」
「……走りません。小学生じゃあるまいし……休ませてくれて有難うございました。あ、あと薬も」
小声で付け加えると、呼続はにこりと笑んで唇の前で指を一本立てた。気障な仕草だが、映画のワンシーンのように嫌みがない。
顔はいいのになぁ、と真は俳優のような顔を見て残念に思った。オカルトに狂っていた姿を見てしまった今となっては、ときめきもしない。
小さくお辞儀をして呼続に背を向け、廊下へ出る為にドアへと一歩進んだ瞬間、呼続が「ああ」と、不意に低く呟いた。
「伏見さん」
「?……はい」
まだ何かあるのか、と振り向いて、真はぎくりと体を強張らせた。
視線の先で、呼続は綺麗に微笑んで真を見ていた。
「もしまた『怖い夢』を観たら、保健室においで。僕に、もっと詳しく話してくれたら、嬉しいな」
軽く腕を組んでこちらを見下ろし、誘うように甘く囁かれた。じっとこちらを見ている目だけが、まるで獣のように光った、と錯覚した。乞われた内容さえ違ったならば、その姿は恋焦がれた男に見えたかもしれない。
意識の外で、自分が総毛だった事がわかった。
真が彼を怒鳴ってから、まだ数時間も経っていない。
呼続は――全くもって、懲りていない。
自分の興味を優先した結果、生徒に本気で怒鳴られた事など、彼にとっては大した事ではないのだろう。
真は辟易する気持ち半分、理解できないものへの恐ろしさ半分の、前者だけを表情に出した。そのまま大股でドアを潜ると、精一杯鋭く呼続を睨み付ける。
「ぜっったい、来ません」
ダン、と、勢い良く閉めたドアの向こうから、呼続が小さく噴き出して笑ったのが聞こえた。
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