第10話 連想ゲーム(2)
人差し指を一本、立てて見せる。その指をチョコレートパフェに当てて、視線を誘導するように一度軽く叩いた。
そして、その指をレジの方面に向けた。
「さっき、スタッフのお姉さんの事じっと見てたよね。……制服からチョコレートを連想したんじゃない? さっきまでは苺のパフェが食べたかったけど、制服の茶色と白の組み合わせ、完全にチョコを意識した配色だもんね。チョコパフェにチェックっぽい飾りも乗ってる」
真が指差したレジの傍で、先程のスタッフがにこやかに接客をしている。
リボンの赤をチェリーに、制服のブラウンチェックをチョコレートの飾りに重ね合わせたゆうりは、頭の中をチョコレートパフェにジャックされてしまったのだろう。
真の自信満々な様子を見て、ゆうりはパッと表情を輝かせた。
「そう! あのお姉さんの制服を見て、チョコレートみたいだなって思ったの。そうしたらもう、メニュー見たらそれしか目に入らなくなっちゃった……真、凄い。よくわかったねぇ」
「珍しく、ゆうりが店員さんの顔じゃないとこ見てるなぁって気になったんだよね。いつも顔見てちゃんと話してるから、違和感あって。それで、あれ顔じゃなくて制服を見てたんだなぁって、気付いたの。ゆうりがチョコレートパフェにするって言った瞬間!」
そこまで言って、真は得意気にふふん、と笑ってまた胸を張った。ゆうりは凄い、ともう一度言いながら、にこにこしてそれを見ている。
真はパラパラと何度もページを捲っては、最初から最後まで順番に目を通して行く。
三回程それを繰り返して、いやでも、とまた一番最後に戻る。
焦りから「中々決まらなくてごめんね」と、言おうとして顔を上げた。その真の目の前を、ゆうりの指がスッと横切る。
「ハンバーグ食べたくなっちゃったんじゃない?」
「えっ何でわかるの!?」
「ふふ、だって真、毎回そのページで一回暫く手止めてるから。食べたいもの食べなよ。折角来たんだもん」
「うぅ……パフェ食べてる美少女の前で、思い切り肉食べるのなんかもの凄く恥ずかしい……折角来たなら甘い物も食べたいし……」
「何言ってるの。美少女じゃないし、何を食べるかなんて、そんな事気にしなくていいのに」
肩を竦めて苦笑いしたゆうりが、あっ、と小さく呟いて自分のメニューを指差した。
「じゃあ半分こしようよ。私もちょっとお腹空いちゃった」
「え、やさし……いいの?」
「ふふ、実はハンバーグもチラシに載ってて、気になってたんだよね。目玉焼きのやつ」
「ゆうりありがとう〜! 半分こしよう!」
「じゃあ決まりね」
「うん、待たせてごめんね!」
大丈夫だよ、と笑いながら、ゆうりが呼び出しベルを押した。
どこかで聞いたようなベルの音がして、遠くからスタッフの「少々お待ちください」という高い声が耳に届く。
メニューを注文し、二人は暫く手持ち無沙汰になった。
特に気にした風もなく、ゆうりは今日の課題をやるか訊いてきたが、真は大きく頭を振って拒否する。
「課題をやりにきたわけじゃないんだよ! 日頃の勉強のストレスから解放される為に、甘いものを食べにきたんだよ!」
真がそう主張すると、ゆうりが笑いながらハンバーグを指差す。
「甘くないもの食べようとしてるけどね?」
「んんぐ……育ち盛りだからいいんだもん……」
店内は賑わっていて、待っている客こそいないものの、スタッフは誰も彼も忙しそうにしていた。
隣の席に座った子供が口元を真っ赤にしながらオムライスを食べている。
はしゃいでいるようで、頬っぺたまで真っ赤だ。
それを微笑ましそうな顔で見て、小さな声でかわいいね、と言うゆうりの方が、真は余程可愛く見える。
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