第9話 連想ゲーム

 目井澤駅はこの辺りの地域では一、二を争う人気の駅だ。

 

 ゆうりと真は小学生の時から住んでいるので見飽きた景色だが、他の駅と比べれば確かに駅周りは賑わっている。

 辺りを見回すと、自分達と同じ制服に身を包んだ学生達も多い。その中に、足早に歩く大人も少なくない人数がいるようだった。


「お店、空いてるかなぁ」

「私、絶対に苺のパフェ食べるって決めてるの。オープンのチラシで見てから、この店の話しをすると脳裏に苺のパフェがチラついて……」

「あは、ゆうり生クリーム食べたいって言ってたからちょうどいいね」


 目指していた店先には幟旗が立っており、季節のフルーツパフェと題したアップルマンゴーパフェの写真が大きくプリントされている。


 オープンしてから一ヶ月ほど経ったようなので、少しは客足も落ち着いているだろう。


 目当てのファミレスのドアを開けると、入店音と共に奥から白と茶色の制服の女性が素早く近寄ってきた。


(わ……かわいい制服!)


 茶色と白が交互に重なったチェック柄が、可愛くプリントされている。ブラウスの襟元にはシックな色味の赤いリボンが結ばれていた。


 初めて入るファミレスだが、制服はかなり拘って作っているらしい。


 真がぼんやりとそんな事を考えている間、ゆうりはスタッフの姿を暫し見詰め、「2名さまでよろしいですか」などのお決まりのいくつかの質問に、慌てて丁寧に返答する。


 その姿に何となく違和感を感じながら、二人の後をついて歩いた。


 案内された席にメニューを置かれ、二人は真っ先に一番後ろのページを開いた。

 ファミレスのデザートは、大体後ろの方に記載されている。

 二人の予想通り、彩り鮮やかなページの中、一際目立つ位置に季節のフルーツパフェとケーキ、ゆうりが食べたがっていたストロベリーパフェが載っていた。


 チェリーや格子模様の飾りが乗ったチョコレートパフェ、端の方に小さくぜんざいやプリンもある。


「意外と種類あるね!」


 真の言葉にゆうりも嬉しそうに頷いた。


 どれも美味しそうで目移りしてしまうが、高校生のお小遣いは微々たるものだ。

 計算して使わなければ直ぐに無くなってしまう。金額も含めて吟味しなければ。


(お腹すいた……やばい、お腹鳴っちゃいそう……)


 いくら幼馴染とは言え、人前でお腹を鳴らすのは避けたい。


 唸りたくなる気持ちを抑え、ページをぱらぱらと捲って見ると、メニュー前半には目玉焼きの乗ったハンバーグが見開きで大きく載っている。

 甘味を求めてきた筈が、しっかりと腹を満たしたくなってしまった。今夕食にするなら、母に家で夕食を食べない事を連絡をしなければいけない。


 パラパラと流し見た真は、口の中に涎が溜まっていくのを感じた。溢さないようにゴクリと飲み込んで、向かいに座ったゆうりに問いかける。


「ゆうり、何食べる?」

「んー、……私、苺のパフェじゃなくてチョコパフェにしようかなって」

「え、苺がいいって言ってたのに、珍しいね。……あ! 私何でそれに変えたかわかるかも」

「えっ?」


 真が勢いよく片手を挙げて少し顔を近付けると、ゆうりは軽く目を見開いてきょとんとした。

 何を言われているかわからない、という表情をしている。


 どこかあどけないそれを見て、真はニヤリと口端を上げた。


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