第8話 目井澤駅
真の通う目井澤高校から自宅方面へ向かうバスは、主要駅方面と違いあまり混雑していない。
ゆうりと二人で、駅前の新しく出来たファミレスでスイーツを食べようという話になった。
つまり、今二人が乗っているバスは目井澤高校から駅へと向かうものだ。車内では、高校生たちが鮨詰め状態で乗っている。
それでも、部活がある生徒はまだ校内に残っている為分散された方だと考えれば、まだマシだと言えるだろう。
「……真、大丈夫?」
「うう……何とか……駅方面ってやっぱり混んでるね」
「もう少しで着くからね」
気遣わしげな抑えた声に、真は軽く頷いて見せる。
バスに乗る際、慣れた生徒達がどんどん後ろから迫ってくる中、押されるようにして二人は乗り込んだ。
その為か、真はバスの椅子の、背凭れの部分が腹の辺りに食い込んでいる。それが乗車からずっと続いているのだ。
真の頭の中は時間が経つにつれ、「早く駅に着いてくれ」という願いしか浮かばなくなってきていた。
暫くして、バスが大きくカーブを曲がってぐらりと揺れた。それに合わせて、ゆうりがそっと真の腕を引っ張った。とはいえ、乗車率の高い車内の事だ。引っ張るというより、軽く掴んだだけに近い動きだった。
(おっ……?)
視線だけでそちらを見ると、バスの揺れに合わせてゆうりがほんの少し体の向きを変えたのがわかった。無言で真の肩を寄せて、同じように真の体も斜めにする。
ほんの少しの向きの違いで、真は背凭れの食い込む場所が変わり、大分呼吸がしやすくなった。
どうやら、ゆうりは真の状態に気付いてから、ずっと姿勢を変えるタイミングを測っていたようだ。
「ありがと……ちょっと楽になった」
「よかった」
小さな声で礼を言うと、にこ、とはにかむ様にゆうりが笑んだ。とはいえ、圧死しそうな程人口密度の高い車内である事に変わりはない。苦しいながらも、真も口角を上げる。
「もうちょっとの我慢だからね」
「ん……ゆうりは大丈夫?」
「私は大丈夫だよ。こっち、凭れてもいいよ」
囁くように言って、ゆうりが吊り革を掴み直した。
真も、少し呼吸がし易くなった今のうちに、大きく息を吸い込んでおく。
ゆうりのその言葉通り、それから五分も経たない内に運転手がバスを停車させた。目井澤駅の到着を告げる、耳慣れたアナウンスが聞こえてくる。
ぞろぞろとバスを降りる人波に流されるように、二人もバスを降りた。
「おあ〜〜やっと駅だ!」
「バス停そんなに多くないんだけどしんどいよね」
「本数と在校生が釣り合ってないんだよな。もっと本数増やせば良いのに」
真が拗ねたように口を尖らすと、ゆうりは仕方なさそうに笑った。
「今でも10分おきくらいに出てるから、他に比べたら多い方だって。これ以上増やしたら、道路バスだらけになっちゃうよ」
「もう高校から駅まで直結の道路作って欲しい! むしろドア開けたら学校にして欲しい!」
歩きながら真がそう言うと、ゆうりは口元に指を当ててくすくすと笑った。
「全員の家につけて欲しいね」
「うちからゆうりの家にも直通にしようね」
「遊び放題だね」
小学生のような冗談を言って、二人で笑い合った。
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