第6話 現実
「真、起きて!」
「!!――」
激しく肩を揺さぶられ、真はびくりと反射的に上体を起こした。
余りにもその勢いが良かった為か、揺さぶって起こしていた筈のゆうりの方が余程驚いた表情をしている。
そのまま、無言で数秒見つめ合った。
「……は、ぁあ」
真は知らずに詰めていた息を、震える唇から大きく吐き出した。
教室は静かで、完全に人気が無くなっている。
視線を巡らせて、状況がわからずに狼狽えていると、ゆうりが心配で堪らない様子で真の名前を呼んだ。
「真ってば凄く魘されてて、全然起きないから……大丈夫? もう六限始まるけど……保健室行く?」
「……あ、そっか……昼寝、しちゃったんだ……夢か……」
吐き出した声は、泣き出しそうに震えていた。
夢からは覚めたのに、全身の震えが止まらなかった。
以前までの悪夢とは、何かが違う。
たまに夢見が悪くて飛び起きた時でも、目が覚めれば夢か、良かったと一人ごちて安心できた。
今は、欠片も安心できない。
目の前ではゆうりが心配そうに真を見ていた。
教室の黒板の上に設置されたアナログ時計を確認すると、六限が始まる時間まで五分程しか残されていない。
ゆうりは真を教室に置いて移動する事も出来ず、ずっと声をかけてくれていたのだろう。
「ごめん、ゆうり」
「いいよ。……また怖い夢、見たの? どんな夢なの? 聞いても大丈夫?」
「ん……また、今度話す。取り敢えず移動しないと」
「大丈夫なの?」
へらり、といつも通りに見えるように笑って、大丈夫と片手をひらひらと振ってみせる。
ゆうりは納得出来ないような顔をしていた。けれど、真が立ち上がると、同じように立ち上がる。荷物を手早く持つと、二人で教室を後にした。
視界の端で、ゆうりがちらちらと視線だけで真の表情を窺っているのがわかった。
夢を見たのは、今の夢で四回目だ。
二回目まで、あの女の姿は見なかった。
ただ、祖父の家で不穏な空気を感じていた。ただ、何となく懐かしいだけではない、――何処と無く薄寒い。
『あれ』を見て今朝起きたときハッキリと、この夢は普通の夢ではなさそうだと思った。
だからと言って、どうする事も出来ない。今の所、真には原因らしき原因も、有効な対処法も浮かばなかった。
「ありがとうね、ゆうり。バタバタさせちゃってごめんね」
「いいよ。気にしないで。……真、辛いなら話してね。話すだけで、楽になる事もあるかも知れないから」
「うん、そうだね。……大丈夫だよ。ありがとう」
話した所で、優しい彼女を困らせるだけのような気がした。それは真の本意ではない。暗い顔を見せるのは自分らしくない。
席についてPCを起動してからも、真の気持ちは晴れずにいた。
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