第12話



4日目。




男が東京に帰る日である。



旅館のチェックアウトを予定時刻より早めに済ませ、男は市場に向かった。





市場に行くには市場前という停留所で降りればいいだろうと安直な考えのせいでかなり歩くこととなったが、旅の思い出としては良いものだった。




いつも心配をしてくれる母に好物のウニとホタテを、いつもガハハと笑い飛ばしてくれる父にイカを購入した。





買いすぎてしまった。





男の荷物はリュック1つだったはずなのにいつの間にか大きめの保冷バッグを持つことになった。





とても重くて走れるような状況ではなかったがかなり幸せだった。





男は新幹線の中で旅の疲れからほぼ寝てしまった。





こんなに大人数と関わり、充実した幸せな日々は初めてだった。







男は実家に帰り次第すぐに両親に土産の海鮮を渡した。




両親は驚いていた。




函館に行くとも伝えていなかったからだ。





旅行に行くとは連絡してきたもののそれ以降連絡を寄越さない息子を両親はとても心配していた。





旅行に行く前の男は常に目に光がなく、暗い顔をしていた。







両親は息子がそのまま失踪するのではないかと不安だったのだ。





信じて送り出したものの一向に連絡を寄越さないと思えば、数日後には見たこともないような笑顔で海鮮を持って帰ってきた。






両親は海鮮以上に息子の笑顔が嬉しかったのだ。






その日は数年ぶりに家族三人で食卓を囲んだ。


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