第11話


男は翌朝9時に起床した。





顔を洗い身支度をして、早々に神社に向かった。






電停で一駅。

 






その神社は兎御守が有名で、社務所の壁面は兎と手毬があしらわれていた。






赤い大鳥居が印象的でその場で一枚写真を撮った。






その後、神社の中でマダム三人衆に遭遇し、ソロショットを撮ってもらった。





「あらー、一人旅行?ここを選ぶなんてセンスが良いわね」





旅行での成長のおかげか、マダムたちのマシンガントークにも笑顔で応える余裕が生まれた。





同時になんとなく母を思い出してすごく温かい気持ちになった。





マダムに撮ってもらった写真の男はいつになく柔らかい表情をしていた。






函館の思い出も大分増え、東京にいるときはほぼ一人だったのに今や「色々な人と普通に接することができるようになった自分」に男は気がついた。





それと同時に胸にあったモヤモヤがいつの間にか消えていることにも気がついた。






明日はついに東京に帰る日だ。






短くともとても充実した日々だった。






「思い切って行動した自分を褒めたい。」






男はそう思った。






その足で男は旧函館区公会堂へ向かった。






車の免許は持っていないため、この旅はすべて電停とタクシーをミックスして利用していた。





タクシーの運転手と雑談できるまでに成長し、車内ではずっとおすすめスポットなどを聞いていた。





また次回来るときの参考にするためだ。






暫く話していると到着した。






運転手さんにお礼を言って降りるとそこには黄色と水色の配色がとても綺麗な建物があった。





どうやらレンタル衣裳館をやっているようだった。





男と同年代であろう女性たちが大正浪漫風の衣装に身を包み、キャッキャと笑いながらスマホで自撮りをしている。






スタイルが良く見える角度に拘っているであろう会話も聞こえてきた。






女性たちの盛り上がりに触発されたのだろうか。







男は普段なら絶対にやらない衣装体験を申し込んでいた。






男が選んだのは和装だった。






スーツよりも着る機会がなさそうな大正時代の和装は、色白で細い男によく似合っていた。






着付けの女性も絶賛だった。






本人の想像以上に似合っていたことから男は満更でもなかった。




「あれ、俺格好良いな」

 



と思える程の自己肯定感があった。






撮影を引き受けてくれたスタッフのお婆さんは本当に男をべた褒めしてくれた。





「あんたハンサムだね。旦那の若い頃を見ているようだよ」






と少しの惚気話も交えつつ非常に楽しい時間となった。

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