第7話 まさかの人物

門司港の夕暮れが深まり、街は静けさに包まれていた。信用金庫のオフィス内でも、ほとんどの職員が帰宅し、残っているのは三田村香織と藤田涼介、高橋健一だけだった。薄暗い照明の下で、彼らの顔には疲労の色が浮かんでいたが、その目は鋭く光っていた。


「これは…本当に不正アクセスなのか?」

健一がモニターを見つめながら呟いた。


香織は緊張した表情で健一に近づき、

「何がわかったの?」と尋ねた。


「これを見てくれ。特定のIDが繰り返し使われている。しかも、内部からのアクセスだ。」

健一はモニターを指差し、ログの異常を示した。


涼介はその画面を覗き込み、

「健一さんのIDが使われている…」と驚いた声を出した。「どうしてそんなことが…?」


健一は深く息を吐き、

「私も分からない。ただ、これは偶然ではない。誰かが意図的に私のIDを使ってシステムに侵入している。」


香織は冷静に状況を整理しようとした。

「内部の人間が関与している可能性が高いってことね。でも、どうやってそれを証明するの?」


健一は画面から目を離さず、

「まずはこのログを詳細に分析する。それから、どのタイミングで不正アクセスが行われているのかを突き止めよう。」


涼介は椅子を引き寄せ、健一の隣に座った。

「何か手伝えることがあれば言ってくれ。」


香織も決意を固めた。

「私たちも協力するわ。信用金庫を守るために、そして真実を明らかにするために。」


三人は緊張感に包まれながらも、一致団結して調査を進めることを誓った。モニターの明かりが彼らの顔を照らし、外の暗闇とは対照的に、彼らの決意は明るく燃えていた。


健一はログの解析を進め、次々と不正アクセスの痕跡を見つけていった。

「見てくれ、この時間帯。すべてが一致している。ここにも、そしてここにも…」


香織はその情報をメモに取りながら、

「誰かが意図的にシステムに侵入しているとしか思えないわ。このログを田中刑事に見せて、もっと詳しく調査してもらいましょう。」


涼介は頷き、

「その通りだ。内部に協力者がいる可能性が高いから、慎重に行動しよう。」


三人はそれぞれの役割を果たしながら、田中刑事に連絡を取り、証拠をまとめた。警察署への道すがら、香織と涼介は門司港の夜景を眺めながら、これからの戦いに備えた。


「涼介、これからはもっと慎重に行動しよう。誰が裏切り者か分からないから…」

香織は不安を隠せないまま、涼介にそう言った。


「わかってる。香織、僕たちが一緒に真実を突き止めよう。」

涼介は彼女の肩を軽く叩き、励ました。


未知の敵との戦いに備え、彼らはそれぞれの心に強い決意を抱いていた。夜の門司港を歩く二人の後ろ姿は、まるで新たな希望を抱えて歩むように見えた。


翌朝、門司港の信用金庫は通常の営業を再開した。しかし、香織と涼介、そして健一の心には昨晩の不安が影を落としていた。彼らは早朝からオフィスに集まり、システムのさらなる調査を開始した。


「昨晩のログをもう一度確認してみよう。」

健一が言うと、香織と涼介もそれに続いた。


健一は手際よくシステムにアクセスし、夜間のログデータを表示させた。画面には、いくつかの不審なアクセス記録が表示されていた。


「このIDは…また健一さんのものだわ。」

香織は眉をひそめた。

「どうしてこんなに多くのアクセスが?」


「見てくれ、この時間帯。全てが一致している。」健一は画面を指差しながら説明を続けた。

「特定の時間帯に集中してアクセスされている。これが偶然とは思えない。」


涼介もそのデータを見ながら、

「これは内部からの犯行に違いない。でも、どうやってそれを証明するんだ?」と問うた。


香織は画面を見つめながら、

「これだけの証拠が揃っているなら、誰かが健一さんのIDを悪用しているのは確かよ。でも、内部に協力者がいる可能性もある。もっと詳しく調べて、誰がこのIDを使ったのかを突き止めなければ。」


健一はログの詳細を確認しながら、

「これを見てくれ。この不審なIPアドレスだ。内部からのアクセスに見せかけているが、実際には外部からのものだ。」と言った。


香織はそのIPアドレスをメモに取り、

「このアドレスを追跡してみましょう。もしかしたら、そこから手がかりが得られるかもしれない。」と提案した。


「良い考えだ。」涼介も同意した。

「まずは、このIPアドレスの所有者を特定しよう。」


三人は手分けして、さらに詳細な調査を進めることにした。健一はシステムのセキュリティを強化し、香織と涼介はIPアドレスの追跡を開始した。


「このIPアドレスは…佐藤隆が利用しているものだ。」香織が驚いた声を上げた。


「佐藤さん?彼は高齢者詐欺の被害者として相談に来ていたはずだ。」

涼介も驚きを隠せなかった。


「もしかすると、彼には何か秘密があるのかもしれない。」健一は冷静に言った。

「彼に直接話を聞いてみる必要がある。」


香織と涼介は、佐藤隆を再び信用金庫に呼び出すことにした。彼がどのようにして健一のIDを手に入れ、不正なアクセスを行ったのかを突き止めるためだ。


「佐藤さんが何か知っているはずよ。彼を問いただしてみましょう。」

香織は決意を込めて言った。


「そうだ。これで真実に近づけるかもしれない。」涼介も力強く答えた。


三人はさらに緊張感を高めながら、佐藤隆との対面に備えた。真実が明らかになるまで、彼らの戦いは終わらなかった。

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