第4話 手がかりの追跡

香織と涼介は、ログに記録されていたIPアドレスの場所を突き止めた。そこは門司港の古い倉庫街に位置していた。二人は静かに車を降り、周囲を見回した。夕暮れの光が倉庫の壁に影を落とし、港の静寂が漂っていた。


涼介は緊張した表情で言った。「ここがログに記録されていた場所だ。気をつけて中を調べよう。」


香織はうなずき、そっと倉庫の扉を開けた。錆びた蝶番が軋む音が、静寂を破った。二人は慎重に足を進め、内部を探索し始めた。薄暗い倉庫内には古びた家具や書類が散乱しており、その一つ一つが過去の記憶を物語っているかのようだった。


涼介が古い机の引き出しを開けると、いくつかのUSBメモリと手書きのメモが見つかった。彼はUSBメモリを手に取り、香織に見せながら言った。


「これが消えた証拠の一部かもしれない。確認してみよう。」


香織はUSBメモリをパソコンに差し込み、中身を確認した。画面に浮かび上がったデータは、彼女の胸に鋭い痛みをもたらした。そこには、消えた証拠の一部と、詐欺グループのリーダーに関する情報が含まれていた。さらに、メモには次の犯行予定や他のメンバーに関する情報も記されていた。


「これは重要な手がかりね。」香織は低い声で言った。心の中で、詐欺グループの冷酷さと自分たちの無力感が交錯していた。


突然、倉庫の外から足音が聞こえた。二人は慌てて古い棚の後ろに身を潜めた。香織の心臓は激しく鼓動し、その音が静寂の中に響き渡るかのようだった。足音が近づくにつれ、彼女の不安と恐怖が増していった。


涼介は冷静を保とうと努めたが、彼の表情には緊張が滲んでいた。「誰かが戻ってきたかもしれない。静かにして、様子を見よう。」


香織は息を殺しながら、棚の隙間から外の様子を窺った。詐欺グループの一員が倉庫に入ってくると、その姿が薄暗い照明に浮かび上がった。彼の動きは素早く、目的を持っているように見えた。


涼介の心の中には、祖父の事件がフラッシュバックした。彼の祖父が詐欺に遭い、家族全体がどれほどの苦しみを味わったか。その思いが彼の決意を強めた。


詐欺グループの一員が書類を探し回る音が響く中、香織は自分の心の中で祈った。「早く、早く立ち去って…」


しばらくして、詐欺グループの一員は何も見つけられずに倉庫を立ち去った。香織と涼介は静かに息をつき、再び立ち上がった。


涼介は急いで証拠を集め、「早くここを出よう。田中刑事に連絡して、見つけた証拠を報告するんだ。」


香織は頷き、倉庫を出た後、携帯電話で田中刑事に連絡した。「田中刑事、こちら三田村です。重要な証拠を見つけました。すぐに対応をお願いします。」


田中刑事は迅速に対応を開始し、香織と涼介は見つけた証拠を田中刑事に手渡した。涼介はその瞬間、祖父のために、自分自身のために、この証拠がどれほど重要かを痛感していた。


「これで詐欺グループを追い詰める手がかりが揃った。警察と連携して、次のステップに進もう。」涼介は決意を込めて言った。


香織は力強く頷き、「私たちがこの状況を打開する。」と答えた。

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