第2話 ブラックリスト

香織と涼介は、佐藤を送り出した後、すぐに信用金庫のシステム管理部門に向かった。管理部門は最新のセキュリティシステムを駆使して、顧客の資産を守るために日々データを監視している。


香織と涼介は、システム管理部門のリーダーである山田と共に、詐欺に関するデータ分析を開始した。山田は短髪で厳格な表情の中年男性だが、顧客を守るためには熱心で頼りになる存在だ。


「まずは、佐藤さんの振込先の口座を調べてみましょう」

と山田は言いながら、コンピュータの画面に目をやった。


山田がデータベースにアクセスすると、佐藤の振込先口座の情報が表示された。口座は何度も使われており、複数の高額な振込が確認できた。


「これは一つのパターンに過ぎないかもしれません。似たような取引が他にもないか調べてみましょう」

と涼介が提案した。

涼介は几帳面で冷静な性格だが、この状況にはいつも以上に熱心だった。彼の祖父もかつて詐欺に遭い、家族が大変な思いをした過去があるからだ。


香織はデータを注意深く見つめ、

「他の被害者たちも同じ手口で詐欺に遭った可能性があります。全ての振込先を一つ一つ確認しましょう」と答えた。香織は共感力が強く、顧客の痛みを自分のことのように感じてしまう。だからこそ、絶対に見過ごすことはできなかった。


調査を進めるうちに、香織と涼介は他の高齢者たちが同じ詐欺に遭っていることを発見した。振込先の口座は頻繁に変更されており、追跡が困難になっている。


「この詐欺グループはかなり組織的ですね」と山田が呟いた。

「口座を次々に変えていることで、警察の追跡を逃れているようです。」


香織は眉をひそめ、

「それでも諦めるわけにはいきません。他の信用金庫や銀行とも連携して、同様の被害がないか確認する必要があります」

と決意を新たにした。

彼女の心には、被害者たちの無力感と、彼らを守るための使命感が渦巻いていた。


香織は信用金庫のデータベースから、被害者と思われる顧客リストを抽出し始めた。リストには、最近大額の引き出しを行った高齢者の名前が並んでいる。

彼女は一人一人の取引履歴を詳しく確認し、詐欺の兆候を見つけ出す作業に集中した。


「このお年寄りも、大量の現金を引き出しているわ。彼らが詐欺に遭っていないか確認するため、連絡を取らないと。」

香織はため息をつきながら、リストにメモを加えた。


一方、涼介は警察との連携を強化するために、直接警察署に足を運んだ。彼は詐欺対策部門のリーダーである田中刑事に面会し、信用金庫での調査結果を共有した。


「田中さん、私たちが調査した結果、詐欺グループが複数の口座を利用していることがわかりました。これを元に、警察と連携して一網打尽にしたいのです。」

涼介は熱心に説明した。


田中刑事はデータを確認し、深く頷いた。

「これは大きな手がかりです。協力しましょう。あなた方の情報があれば、詐欺グループを追い詰めることができる。」


数日間の調査の結果、香織と涼介は決定的な証拠を掴んだ。詐欺グループが利用している振込先の一つが、既に警察のブラックリストに載っていることが判明したのだ。


香織がデータを確認しながら、涼介に向き直った。

「この口座、警察のブラックリストに載っているわ。これは決定的な証拠になるわね。」


涼介の顔には一瞬の安堵が浮かんだが、すぐに真剣な表情に戻った。

「今こそ行動に移る時だ。この証拠を元に、警察と共に詐欺グループを追い詰めよう。」

彼の心には、祖父に対する償いの思いが燃えていた。


香織は涼介の決意に応えるように力強く頷いた。「警察に連絡して、早速動いてもらいましょう。被害者たちのために、そして私たち自身のためにも。」


涼介はすぐに警察に連絡を取り、詐欺グループの逮捕に向けた作戦を練るための会議が設定された。会議には、警察の詐欺対策部門のリーダーである田中刑事も参加した。

田中刑事は冷静沈着で経験豊富な捜査官であり、詐欺事件に対する鋭い洞察力を持っている。


田中刑事はデータを確認し、深く頷いた。

「この口座が詐欺グループの中枢にあることは間違いない。ここを突けば、連鎖的に他の口座やメンバーの情報が浮かび上がるだろう。」


香織と涼介は田中刑事の言葉に希望を見出した。涼介は心の中で祖父に誓った。「今回こそは、この手で詐欺師たちを捕まえてみせる。」

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