【完結】港町事件簿 第五巻: 信頼の罠
湊 マチ
第1話 初動捜査
門司港の信用金庫の営業フロアは、平日の午前中にもかかわらず活気に満ちていた。窓の外には歴史的な街並みが広がり、遠くに見える海がきらきらと輝いている。信用金庫の職員、三田村香織はデスクで書類の整理をしていたが、ふと隣の席に目をやると、同僚の藤田涼介が高齢の男性と話しているのに気づいた。男性は明らかに落ち着かない様子で、何か深刻な問題を抱えているようだった。
香織が耳を傾けると、涼介が優しい口調で話しかけているのが聞こえた。
「どうぞお話をお聞かせください。私たちができる限りお手伝いします。」
高齢男性は深いため息をつき、震える声で話し始めた。
「実は、最近電話で詐欺にあいまして…。高額な振り込みを要求され、気づいたときには手遅れでした。」
涼介は真剣な表情で頷き、丁寧にメモを取りながら話を聞いていた。
「それは大変でしたね。まずは詳細を教えていただけますか?」
香織はこの状況に気づき、そっと立ち上がり涼介のもとへ向かった。彼女の顔には心配の色が浮かんでいた。
「涼介、少しお話を伺ってもいいですか?」
涼介は頷き、高齢男性に一旦待つようにお願いしてから香織に向き直った。
「この方、詐欺にあってしまったようなんです。どうやら高額な振り込みを要求されたみたいで…。」
香織は眉をひそめた。
「これは放っておけないわね。詳細をもっと聞いて、どのように対処するか考えましょう。」
二人は高齢男性に再び向き直り、彼の話を詳しく聞き始めた。男性は詐欺の詳細を話し終えると、疲れたように椅子に沈み込んだ。
「私がこんな目に遭うなんて…。一体どうすればいいのか…。」
香織は優しく微笑み、安心させるように言った。「私たちが全力でサポートします。一緒に解決しましょう。」
涼介も力強く頷いた。
「そうです。まずは警察に連絡して、必要な手続きを進めましょう。そして、今後同じようなことが起こらないように、注意点もお伝えします。」
男性は少し安心した様子で二人に感謝の言葉を述べた。
「本当にありがとうございます。信用金庫がいてくれて助かりました。」
香織と涼介は、男性をサポートしながら、次のステップを考え始めた。信用金庫として、どのようにしてこのような犯罪から顧客を守ることができるのか。二人の心には、新たな挑戦への決意が芽生えてた。
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香織と涼介は、信用金庫の一室に佐藤隆を案内し、詳しい話を聞くために腰を下ろした。窓から差し込む柔らかな光が、部屋の静けさを際立たせていた。香織は佐藤に穏やかな微笑みを浮かべ、安心させるように声をかけた。
「佐藤さん、まずは落ち着いてください。どのような経緯で詐欺にあわれたのか、詳しく教えていただけますか?」
佐藤は震える手でハンカチを握りしめ、深呼吸をした。
「はい、電話がかかってきたのは一週間前のことでした。『あなたの口座が不正利用されています』と言われ、信じ込んでしまいました。指示通りに対応しないと、全ての資金が危ないと脅されたんです。」
涼介は真剣な表情で頷きながら、ノートにメモを取り始めた。
「その電話は、どんな口調でしたか?プロフェッショナルな感じでしたか、それとも…?」
佐藤は眉を寄せて思い出そうとした。
「とても冷静で、確信に満ちていました。まるで銀行の担当者のような感じでした。」
香織はその言葉に反応し、さらに質問を続けた。「その後、どのような指示を受けたのですか?」
「安全な口座に資金を移す必要があると言われました。指示通りに、指定された口座に全額を振り込んでしまいました。後になって、電話をした相手が詐欺師だと気づいた時には、もう遅かったんです。」
香織は深く頷き、涼介と目を合わせた。「佐藤さん、大変な思いをされましたね。私たちができる限りのサポートをします。まず、振り込んだ口座の情報を教えていただけますか?」
佐藤はカバンから書類を取り出し、香織に差し出した。香織はそれを受け取り、涼介と共に確認した。振込先の口座が複数の被害者からの入金を受けていることが、既に判明している。
「この口座が詐欺グループの中継点として使われているようですね。システム管理部門と連携して、さらに詳しい情報を調べます。」
涼介はそう言って、メモを取る手を止めた。
香織は優しく微笑んで佐藤に言った。
「私たちがこの件を解決するために全力を尽くします。どうぞ安心してください。」
佐藤は深く頭を下げた。
「ありがとうございます。どうかよろしくお願いします。」
香織と涼介は、佐藤を送り出した後、すぐに信用金庫のシステム管理部門に向かい、データ分析と内部調査を開始する準備を整えた。詐欺グループの手口を暴き、高齢者を守るための戦いが始まった。
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