第48話 世界樹の少女
「「「りぃとさまーーっ!」」」
村に帰ると、花人族たちが焦った様子で駆け寄ってきた。
基本的にはボディランゲージとダンスでコミュニケーションを取る花人族たちは、かなり舌足らずだ。
喜怒哀楽もはっきりしていて、リィトが外出から帰ると人懐こい犬みたいに全力で出迎えをしてくれる。
子どものような体格や見た目と相まって、親戚の子どもたちにじゃれつかれているような気分になる。リィトの密かな癒やしだ。
だが、今日はいつもと状況が違った。
「えっと……木から、子ども? 生まれたです?」
花人族たちの身振りを通訳してくれているフラウが、戸惑った様子でリィトを上目遣いで見上げる。
「木、って……謎の若木Xか?」
リィトが宮廷魔導師の職を追われる際に、物置に積み上げられたゴミの山から発掘してきた謎の種子X──それを地植えし、水精霊の沢から汲んできた水をかけたところ──一気に、生長した。
様々な情報を総合すると、
世界樹の絶滅により、世界の魔力バランスが崩れて北大陸のようなモンスターの大発生につながった──という考察もあるほどだ。
「はいっ、見に行きましょうっ」
とてて、とフラウが走る。
花人族たちは、彼らの種属の性質からか世界樹の若木を熱心に世話している。伝承によれば、花人族は命を得た魔樹であり、世界樹の末裔とすら言われているのだ。
やはり、何か感じるところがあるのだろう。
不思議な光をまとった樹。
その前に、人影があった。
「あっ」
少女だ。
夢で光り輝く美少女が、世界樹の若木の前に立っている。
ぼんやりと若木を見上げている少女が、ゆっくりと振り返る。
純白のナビに似た、しかし、それよりもさらに輝く光を纏った銀髪が風になびいている。背丈はフラウとほとんど変わらない──見た目でいえば、十歳にもならないような幼い体つき。
しかし、纏うオーラは圧倒的で、その一挙手一投足からリィトは目が離せないでいた。
「おお、おお……スクープの予感にゃ……っ!」
探索での収穫のなさにすっかりふて腐れて眠そうにしていたマンマが、いつの間にか瞳を爛々と輝かせている。
これから起こることを、何ひとつ見逃すまい、書き逃すまいとしている。敏腕記者の顔。だが、この世界で数々のスクープをものにしてきたであろうマンマですら、わずかに声が震えている。
目の前の少女が、ただ者ではないこと。
今起こっている現象が、生半可な事態ではないこと。
それが、ピリピリとした緊張感とともに伝わってくる。
「…………」
少女が振り返る。
まっすぐに、その瞳がリィトをとらえた。
ほかの何にも目をくれずに、リィトを見つめる少女は、薄い唇を開いた。
「りぃと・りかると」
少女は、リィトの名を呼んだ。
夢で聞いたのと同じ響き。
そして──
「……おとうさま」
「はっ!?」
とんでもない言葉が聞こえた。
にこり、と微笑む少女。
「マスター……これは、あまりにもアレすぎます」
ナビの涼やかな声が響く。
トーゲン村の空気が、凍った。
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