第41話 ミーアの大ピンチ!

 トーゲン村に帰ると、猫人族ズが到着したところだった。

 出荷するベリー酒や農作物のやりとりを終えてしまえば、あとは宴だ。

 東の山からアデルが連れ帰ったヌシ──アデルにより「トラ」という身も蓋もない名前をつけられた猛虎型モンスターを見て、花人族たちは驚いたり喜んだり大騒ぎだった。

 マンマが記事にしたそうにしていたが、ちょっとした賄賂(マタタビ酒)で手を引いてもらうことにした。

 上級モンスターをテイムしたとか、帝国の皇女が出入りしているとか。

 そういう情報はできるだけ漏れてほしくないのだ。

 悪目立ちは絶対にしちゃいけない。

 ……ただでさえ、雲行きが怪しいのだから。

(アデルの持ってきてくれた資料……これって、やっぱり謎の苗Xのことだよなぁ)

 帝都図書館の資料室にあった目録らしい。

 宮廷魔導師が買いつけた魔導具や素材が書かれているのだが、大昔──モンスターの大量発生に端を発する対魔戦争が始まるずっと前、まだ帝国が小さな小国だった頃、ある宮廷魔導師が大量の怪しげな品々を買い付けたらしい。

 その目録の中には、こう記されていた。

 世界樹の種子。

 正直、偽物を掴まされたと考えるほうが理にかなっている。

 世界樹の種子なんてものが存在するかどうかも怪しいし、あったとしても手に入れられるわけがない。

「でも、状況証拠がすごいんだよな……」

 青く光り輝く種子。

 魔力で育ち、七色の光をまとった苗に成長する。

 マンマが調べてきてくれた、お伽噺のような言い伝えの通りなのだ。

 まさか、本当に世界樹の種子なのか。

 だとしたら、大変なことになってしまったぞ……とリィトは胃を痛くする。

 だって、もしこのまま世界樹が育ったとしたら……数百年、いや、数千年ぶりにこの大陸に世界樹が存在することになる。

 悪目立ちしていること、この上ない。

 目立たずに、ごく平凡に、隠居ライフを送ろうと思ってこの土地にやってきたのだ。

 まさか、帝都からたったひとつだけ持ってきた種子が──ちょっと面白そうだからと育ててきた、珍しい植物が、世界樹だなんて。

「そんなこと、ある? あああ……なにやってるんだよ、僕はぁあぁあ……ッ」

「ニャーーッ? リィト氏そんなとこでなにしてるのニャ?」

「あー、ミーア……ごめん、ちょっと自己嫌悪中」

「ふーん。ミーからちょっと話があるんだけど、今は無理な感じニャ?」

「話?」

 バツが悪そうにしているミーア。

 どうやら、あまりいい話ではなさそうだ。

「……正直に言ってごらん」

「ニャッ!? いや、まだ悪い知らせというわけではっ!」

「……本当は?」

「うっ……わ、悪い知らせニャ」

 しょぼっ、とミーアが肩を落とした。


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