第27話 久々の肉にテンションが上がるのは仕方ないと思う。
どどん、と鎮座する肉をミーアたちが切り分けてくれる。
花人族に肉食の習慣はないようで、フラウたちは遠巻きにして物珍しそうにバーベキューの準備を眺めていた。
その代わり東の山からよく乾いた薪を集めてくれたので、火をおこすのには苦労しなかった。
「味付けは、塩と……それから、ハーブ類ね」
上南大陸では、胡椒は超高級調味料だ。
主な味付けは塩で行われる。リィトが栽培し、乾燥させ、調合したハーブで香りをよくしていく。ハーブ塩は魔法の粉なので、なんでも美味しくなるのだ。
ハーブ塩はトーゲン村での生活で、リィトが完成させた偉大な研究成果である、
「ふぅ。色々と作付けしておいてよかったな!」
リィトも料理の心得はないので、目分量で塩とハーブを肉にまぶしていく。やはり、香辛料があるだけで、全然違う。食欲をそそる匂いがたちのぼる。
鉄板はないので、直火でいくことにする。
耐火性能を上げたベンリ草で串を作って、肉と野菜を刺していく。
見るからにバーベキューという感じの串ができあがった。
「おおお~っ!」
「猫人族はタマネギとかニンニクはダメだろ? こっちの串が、君たちの分ね」
猫人族用に作っておいた串を焼く。
一応は、人族の仲間ではある猫人族。猫と同じようにネギやニンニクが命にまで関わるわけではないが、念には念を入れておいたほうがいいだろう。
「にゃんと、門外不出のわがはいたちの弱点をわかっているとは……リィト氏、何者であるか……!?」
「えっ、あ、門外不出なの?」
猫にタマネギは絶対ダメって、常識だと思っていた。
前世では激務からの現実逃避でもふもふを飼う妄想をしていたから、知識だけはあるリィトだった。
「そうニャ、お腹痛くなっちゃうニャ」
ウキウキでバーベキューを始めるミーアの横で、マンマはすでにご機嫌に酔っ払って、液体みたいな猫になっていた。
「ふにゃぁ~♪ マタタビ酒うみゃ~~♪」
「あ、マンマずるいニャ! ミーにもよこすニャッ!」
「にゃふふぅ、早い者勝ちぃ」
「ウニャーッ!」
お酒大好き猫人族ズを横目で眺めながら、リィトはバーベキューに向き合う。
「……さて」
まずは、焚き火が落ち着くまで待つ。
遠赤外線を発する、いわゆる
肉の香ばしい匂いがあたりに漂い、花人族たちすら肉と一緒に焼かれている野菜に普段とは違うエキスを感じているのか、ごくりと喉を鳴らしている。
リィトも、真剣そのものだ。
「さぁ、できた」
じっくりと焼き上げた肉や野菜を配る。
花人族はジューシーな肉にはどうしても手が伸びないようだったので、野菜串を別に作ってあげた。野菜なら、文字通り売るほどあるのだ。
「いっただっきまーす!」
新鮮な肉は、帝国でもギルド自治区でも高級品。
さらに輸送のために自治区にいる魔導技師(自治区では魔導を使える人間は限られている)に氷魔導を依頼したとなれば、かなりのコストがかかっている。肉そのもののありがたさも、高級品へのありがたさも、一緒に味わうことにしよう。
ぱくり、と肉を頬張る。
まず、塩ニンニクのパンチ!
噛みしめると焦げ目のうまみを追いかけて、肉汁がじゅわっと溢れてきた。
塩辛くもない。
味が薄くもない。
和牛の柔らかさとまではいかないが、何百回噛んでも噛みきれない筋張った肉でもない──。
「う、うっ……!」
呻くリィトに、周囲が慌てふためく。
「りぃとさまっ?」
「むむ、事件のかほりである」
「大丈夫か、リィト氏ぃ!? ま、まさか毒かニャッ!?」
「……はぁ」
最後の溜息は、ナビだ。
リィトは、万感の思いで言葉を絞り出す。
「う……~~っ、美味いっ!」
「
「いや、本当に美味しい!」
シンプルな味付けだけれど、めちゃくちゃガツンとくる味だ。
水っぽくもないし、具材が溶けてもいないし、味もしっかりついている。
こうなってくると夢が広がる。他にも、ちゃんと具の入っている濃厚なシチューや、香辛料たっぷりのカレーなど、作りたいモノはまだまだあるのだ。
でも、今はこのシンプルなバーベキューが大成功したことを噛みしめたかった。
「美味い……感無量だ……」
「もー……び、びっくりしたニャ」
「ふ、ふえぇ」
「ふにゃ……いけないリィト氏だにゃぁ~、フラウを泣かしたのである!」
「えっ!? わ、ご、ごめんよ」
リィトになにかあったのかと心配したあまり泣きだしたフラウに平謝りすることになった。
肉汁のしみた野菜は花人族たちにも大好評。
マタタビ酒でご機嫌な猫人族ズと、陽気な花人族によるダンスパーティーまで始まった。
しかし、やはり昼からバーベキューは最高だ。
畑仕事にバーベキューと来たら、魚釣りも楽しみたいところだけれど……近くに手頃な水場がないのが悔やまれる。
買った領地の西にあるはずの断崖絶壁と激しい波がしぶきをあげる海は、のんきに魚釣りとか言っていられない荒海みたいだし。
リィトにしきりにお酌をしたがっているフラウに「いや、手酌でね」と遠慮しながら、真っ昼間からのバーベキューを楽しんでいると、休眠モードになっていたナビが突如顕現した。
真剣な表情。
リィトは、ナビの様子に姿勢を正す。
「……マスター」
「どうした」
「
「……人?」
「いえ」
ナビは声を低くする。
「──獣型モンスターです」
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