第22話 特報号外! 情報ギルド【ペンの翼】より
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特報号外! 情報ギルド【ペンの翼】より
帝都からスゴ腕の魔導師、南大陸に来たる!?
謎の魔導師の活躍が話題となっている。
当ギルドの記者マンマによると、南大陸随一の都市であるギルド自治区ガルトランドにて超スゴ腕の魔導師が目撃されている。
運送ギルド『ねずみの隊列』
のメル氏の証言によると、謎の魔導師らしき人物は帝都から単身でギルド自治区に入国したと見られている。
マンマ記者が決死の潜入取材によって遭遇した魔導師の立ち回りは見事だった。触手のようなものを自在に操り、街の治安を乱した者達を一撃にて沈めた手腕はかなりの手練(てだ)れであることが窺(うかが)える。
「わがはいの分析ではぁ、あれはまったく本気出してない感じだにゃぁ~」
マンマ記者はこのように証言している。
深刻化していた赤ベリー不足の解消にも、謎の魔導師が関わっていることを情報ギルドは独自のルートで入手した。
治癒ポーションの原材料である赤ベリーが歴史的な不作により高騰していた問題について、冒険者大国として知られる北大陸のロマンシア帝国との貿易問題に発展する可能性があったため、ギルド構成員の一部からはこの魔導師を探し出し表彰を行うべきであるという声もあがっている。
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ふわふわ尻尾の猫人族マンマはガルトランドの朝市をぶらついていた。
情報ギルド『ペンの翼』の記者である彼女の朝は早い。いや、正確には全然寝ていないのである。徹夜明けというやつだ。
〆切を倒した朝に黒ベリーの抽出液、要するにコーヒーを啜りながら朝市で売られているドーナツをかじるのがマンマのお気に入りだ。固くてバサバサのドーナツだけれど。
「ふにゃぁ~、わがはいの記事は今回も大人気だったのだ」
「うなーっ⁉ そのドーナツは売り物なニャ! ミーの店で勝手をするニャ、ばかーっ!」
出店のテントの横に座り込んでコーヒーをはふはふしているマンマの横で、短毛の猫人族の少女が大声をあげた。
商人ギルド『黄金の道』のエース、ミーアだ。
地獄の品薄になっていた赤ベリーをどこからともなく入手してきて、さらには安定的な仕入れルートを押さえたとなれば、ギルドの中でも一目置かれる存在になる。
「ふふん。ドーナツは〆切明けのわがはいにこそふさわしいのである」
「ぐぎぎぎ、これから労働するミーこそドーナツ食べるべきニャ!」
「ふぁ~。ごほーびを先に食べようなんて、ふてぇやつであるにゃぁ……って、あいてっ!?」
はふぅ、と欠伸をするマンマの顔面に、細身な尻尾がアタックをかました。
「なにをするにゃ!」
「ミーがあくせく働いている横でドーナツを満喫しているやつは、こうニャ! こうニャァ!」
「ふにゃぁ~~~~っ」
情報ギルド『ペンの翼』のマンマ。
商人ギルド『黄金の道』のミーア。
猫人族同士、昔からの腐れ縁だ。
どちらも耳の早さと足の軽さが命の仕事をしている同士、お互いに持ちつ持たれつの関係だ。
「というか、ミーは朝市で荒稼ぎしたあとで旅に出るのニャ! 鈍行の馬車で一週間もかかるし、とっても大変なハードワーク週間なのニャ!」
「うにゃ……運送ギルドを紹介してあげてもいいけどぉ~? 走竜車の特急なら、三日で着くにゃ~……ふぁーあ……ぐー……」
「寝るニャよ! まだ話の途中~っ!」
「はっ! すまにゃい、わがはいとしたことが……。しかし、ミーアよ。そのような遠方に、なにゆえ出向くのにゃ。行商ギルドに鞍替えかにゃ?」
「ちがうニャ」
ミーアがぷるぷるとかぶりを振る。
腰を据えて商いに勤しむ商人ギルドと、各地を旅する行商ギルドは姉妹ギルドだが、ちょっとしたライバル関係にあったりもするのだ。
「聞いて驚け……例の魔導師に、色々売りにいくのニャ!」
「………………にゃ?」
「信じられにゃいくらいクソ田舎に引っ込んでしみゃった例の魔導師のライフラインを、ミーが確保するって約束したのニャ」
「………おい」
「フニャ! 首根っこ掴むにゃよ、暴力反対~っ!」
「その出張、わがはいも同行するぞ」
「は?」
「ふふふにゃ~……今、自治区で魔導師フィーバーが起きてるのにゃ。情報ギルド『ペンの翼』の美少女記者を救ったヒーローだからにゃ……」
「おま……今、自分で美少女って言ったニャ、マンマ」
一応、それは事実だ。
猫人族はその愛らしい容姿から、ギルド自治区では大人気。かくいうミーアも商人ギルドで新規出店する店があれば、臨時看板娘として駆り出される。自慢ではないが、営業スマイルの効果はバツグンだ。
「密着取材にゃ、わがはいの記者魂がうずくのにゃ……っ!」
にぱぁっ、と笑顔のマンマに、ミーアは渋い顔をした。
「あまり記事にされると、商売がやりにくいのニャ! ミーが大もうけしたいのニャ!」
「むふふ……出発するときに起こしてくれ。……ぐぅ」
「ニャッ、寝たっ!」
じゃれ合う二人を乗せた特急走竜車が、辺境に向けて出発したのは昼前のことだった。
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