第2話
早朝、魔王城の人口の5分の1が減っていた。
「どうした!?なぜこんなに減っているのだ!?」
いつものように起こしに来たアシスタンスの報告を聞き、いつもは寝ざめの悪い魔王がベッドからすっ飛ぶように起床した。
「やはり勇者を迎えるというのに無理があったのですよ魔王様。下位の魔族が夜中に奇襲して返り討ちにあったようです」
「まったく。下位の者には指示がうまく伝わっていなかったのか?」
魔王は寝巻のまま頭をガシガシ掻く。昨日、急遽勇者を迎え入れたことを大々的に発表し、納得できないやつは魔族式説得:暴力で黙らせるなど対策はしていた。
「おはようございます魔王様……」
扉から控えめに勇者が顔を出す。
「勇者よ、今しがた報告を受けたのだが……」
「僕またなんかやっちゃったみたいですね」
「いや……こちらの不手際だ。部下たちがすまない」
「みなさん、お強かったですよ」
「皮肉か?」
勇者には傷1つついていない。返り血1つもない。生き残った魔族へ聞いたところによると、下位とはいえそれなりの実績を持つ魔族の面々が魔法や剣でとびかかるも、勇者は寝ぼけ眼で魔法を放ち、返り討ちにしたのだ。その後何事もなかったかのように二度寝に入る勇者を恐れ、次は我からと待ち構えていた魔族は静かに解散した。
「魔族を恐れさせるなんて、勇者は伊達じゃないなぁ」
魔王は自室に勇者を呼びつけ、のんびり朝食をとっていた。勇者も落ち着いた様子で、相伴する。
「のんびりしている場合じゃないですよ魔王様。死んだ者たちは重要ポジションではないのでよいとして、勇者の強さが知られた今、上位の魔族らも勇者に挑戦しかねない状態です。早急に勇者を仲間と認めさせなければなりません」
「あぁ、すでにウェメザから勇者と戦わせろとつつかれている」
ウェメザは魔族の中でも力の強さに重きを置いていて、強いとみるとすぐ戦いに行ってしまう。最近は役職もつき、部下を強くすることに力を入れて行動も落ち着いてきている。しかし宿敵勇者と戦えるとなると居ても立ってもいられない様子で、今も魔王の部屋の出口で待ち構えている。
「おい、ウェメザ。お前勇者と戦いたいようだな」
「はっ!その通りでございます!」
名を呼ばれたウェメザが目にもとまらぬスピードで魔王の前に出る。ウェメザはその勝気な性格に似合わず、魔族にしては小柄で非力な部類に入る。単眼で、目立つ虹色に反射するうろこを持った二足歩行のトカゲのような魔族だ。
「ウェメザよ、魔王が命ずる。勇者の教育をしろ」
「えっ!?私がですか?」
「勇者は今、ただ魔法をぶっ放すしかできない。人間界では学べない繊細な魔法の使い方を教えてやれ。勇者はまだ弱いのだ」
ウェメザは勇者の全身を舐めるようにねめつけた。勇者もウェメザを眺めている。敵意を向けられても表情を変えない勇者にウェメザは小さく舌打ちして、魔王に向きなおる。
「ではいつも通り、鍛え上げた勇者と一番最初に戦う権利を所望します」
「よかろう」
「では謹んで拝命いたします。おい聞いたか勇者!食事が終わったら私の部屋へ来い!10分待つ!」
ウェメザは目を輝かせ、風のように去っていった。
「ということだ勇者。お前の魔法は大雑把すぎる。そのあふれる魔力を制御できるようになって来い」
「ありがとうございます。受け入れてくれたからには頑張りますよ」
勇者は行儀悪くソースの付いた指を舐めると、これまたすごい速さで部屋を出ていった。
「珍しく英断ですね魔王様。戦いのセンスがずば抜けているウェメザならあの爆弾勇者をうまく仕込んでくれるでしょう」
「そしてウェメザなら、勇者に向かってくる身の程知らずをいい感じにのけてくれるだろう」
魔王はにやりと笑い、同じくにやりと笑うアシスタンスと拳をこつんとぶつけた。
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