罪と罰
それからしばらくして、国王陛下から謀反に加わった者たちへ処罰が下された。
ブライス公一家は斬首。うひゃー!
でも日本だって、百年ちょっと前まで死刑は斬首だったわけだし。
中世ヨーロッパも斬首だったし。ギロチンなんてものまであったし。
法治国家ってすばらしいな。
ブライス公爵家は取り潰し。一族の内、ブライス公に加担した者は斬首。加担しなかった者は領地没収の上、国境の地へ強制移住。国境警備の任につく。
王都で華やかに暮らしていた者にとっては、きびしい生活になるのだろうな。
グレイ伯爵一族(イザベラ側妃含め)も同罪同罰。
ジェームズ殿下は牢獄塔へ幽閉。
事の顛末は――。
ブライス公による王位簒奪計画は、イザベラを側妃に上げたことから始まる。じつに十八年におよぶ壮大な計画だった。
カミラが王太子妃になればそれでよかったのだが、イザベラを側妃にしたのは、なれなかったときの保険だった。
王太子妃がカーソン公の娘に決まったときは、くやしさのあまり思わずカミラに「役立たず」と罵ってしまった。
しかたがない。実際に役に立たなかったのだから。
公爵家の嫡男として生まれ育ったのに、なにをまちがって、このような権力に執着した歪んだ人間ができ上ってしまったのか。
そのくせ計画を立てる頭脳と行動力があるから質が悪い。
若いころから子分扱いしてきたグレイ伯をまきこみ、イザベラを側妃にねじ込んだ。うまい具合にイザベラは王子を生んだ。
しめしめ。
イザベラは、見かけばかりがいいバカだが、役に立った。
国王と上のふたりの王子を抹殺さえすればこのジェームズを王にできる。イザベラは王太后。グレイを使って国政を自分がつかさどるのだ。
カミラを王妃にすれば盤石である。
それなのに、ジェームズはシャーロットを王妃にしたいと言い出した。
まったく、色気づきやがって。
だがそのおかげで、国王一家を葬り去るいいシナリオを思いついた。
カミラがルイーズを毛嫌いして嫌がらせをしている。
ルイーズがいなくなれば王太子はカミラのものになる。
ではまず、ルイーズと王太子を排除しよう。
仲睦まじいふたりだが、どちらかが裏切ったとなれば、さぞや絶望の淵に落とされるだろうな。
不貞を働いた。なんてとてもいい裏切りだ。
王太子とシャーロット。もしくはルークとルイーズ。
そこに加わるのが、カミラとジェームズ。
この六人で民衆が大喜びする芝居を作りあげるのだ。
なんとすばらしい!
ブライス公はおのれの思いつきに、手を打って喜んだ。
いやいや、だからさ。人の気持はどうなんだ!
謀反から三週間後、刑は執行された。
カミラが正気を取り戻すことはなかった。刑場に引き出されても、幼子のように無邪気に笑いながら「アンジェラ」に話しかける姿に、刑を見届けに来た人々は目を覆った。
あの高慢で貼りつけたような薄い笑みを浮かべたカミラしか知らない人々は、とても同じ人物とは思えなかった。変わり果てたカミラはみなの哀れを誘った。
ふしぎなことに、あれほど執着していた王太子のことはなにも覚えていないようだった。現に刑場においても、王太子のことは一瞥もしなかった。
死刑台に上げられ膝をつかされても「アンジェラ」を呼びつづける。その、刑場には不釣り合いなあどけない声は何年たっても何十年たっても人々の耳に残って消えなかったという。
ブライス公は手枷足枷をはめられ、死刑台の横に跪かされ、一族全員の死を見届け、いちばん最後に刑を執行された。
いったい彼は、我が子の様をどう思ったのだろうか。やつれて落ちくぼんだその目に、幼子にもどってしまったカミラはどう映ったのだろうか。
せめて「申し訳なかった」と思ってほしい。
メアリは修道院へ送られることになった。王太子に毒を盛ったのだ。本来なら斬首になるところだが、巧妙な罠にはめられ脅されたことから、斬首は免れた。
そのかわり、終生懺悔せよ、と陛下の命が下ったのだ。
闇賭博場は摘発を受け、黒幕はやはりブライス公であると胴元はあっさり白状した。
アランを罠にはめた友人は、わずかばかりの報酬で深い考えもなく請け負ったのだった。
けっきょく、闇賭博にかかわったとして検挙され、厳罰に処せられてしまったが。
そもそも闇賭博が違法なので、アランの借金は帳消しになった。
ウッドヴィル伯爵は、当主を遠縁の者にゆずり、アランともども領地で農業や牧畜に従事し、新しい領主の手伝いをするという。
こうして謀反は収束した。
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