目が覚めたら
「にんにくマシマシで!」
「ア、アメリア?!」
「はっ?」
元の世界に行ったついでに、よくいったラーメン屋をのぞいて見ようと思ったのだ。駅前の豚骨しょう油のこってりラーメン。食べれなくてもせめて匂いだけでも。
そう思ったのだ。
そう思ったら、もう店の中にいた。
すごい! ルーラできた! なんてね。
そうしたら、若くてきれいなおねえさんが「にんにくふやそうかなっ。どうしようかなっ」って迷っていたから。
だからつい言ってしまったのだ。
「にんにくマシマシで!」
と。
目のまえには、超絶美少女。ピンクの髪に菫色の瞳。
うわー。めっちゃかわいい。
あっ。お嬢さまか。
「アメリアッ? だいじょうぶ?」
お嬢さまの菫色の瞳が不安げにゆれている。
「アメリア? だいじょうぶなの? どこか痛いところはない?」
うちのおかあさまもいた。
「お医者さまを!」
なんてうしろでお嬢さまが言っていて、ばたばたとあわただしい足音がした。
ここはどこだろう。見たことのない部屋だ。
あれ? どうしたんだっけ?
「あなたね、三日も目を覚まさなかったのよ」
と、おかあさまが言う。
え! 三日! 三日も寝てたの?
「と、とりあえず、目が覚めてよかったわ」
ふたりして、目が泳いでいる。
あ、あれか。いきなり「にんにくマシマシで」なんて言ってしまったから、どういう反応していいのかわからなくなってしまったのか?
意識がもどりました! と大喜びするはずだったのに。
それは、ごめんなさい。
ああ、そうだった。ジェームズに突き飛ばされたんだった。
あれは夢だったのか。
こうしてお嬢さまもお母さまもいるってことは、無事に解決したのかな? そう言えば、お嬢さまも剣を突きつけられていたよな。
「お嬢さまはだいじょうぶですか?」
「ええ。だいじょうぶよ。なんともないわ。アメリアのおかげよ」
お嬢さまはようやく我に返ったらしく、ぽろぽろと涙をこぼした。
そんなに、心配かけちゃったのか。
「痛っ」
起きようとしたら、体中が痛くて動けなかった。腕を持ち上げることもできない。
とくに、頭の右側がずきずきがんがんする。おでこになにか貼ってあって、視界のじゃまになっているし。
それから、右脚がめっちゃ痛い。どうしたんだろう。
「ジェームズ殿下に突き飛ばされたのはおぼえている?」
お母さまがそう聞いた。はい、思い出しました。
「それで頭を打って意識をなくしちゃったのよ。右ひざも強く打っていてね。だいじょうぶ、骨折はしていないから。ただ動かさないように固定してあるの。しばらく我慢してね」
……重傷なのでは?
お医者さまがやってきて、診察をして、きょうは起きちゃダメ、とか言われて。あしたから少しずつ体を動かしましょう、とか言われて。
ここは王宮の客間らしい。
意識をなくしたわたしは、そのままこの客間に運ばれて三日。おかあさまとお嬢さまがずっと付き添ってくれて、それからおとうさまが来てお兄さまも来て。さらに国王陛下、王妃さま、王太子、ルーク両殿下(withヘンリー卿、ジョージ・クラーク)がお見舞いに来てくださり、カーソン公とルイーズさまも来てくださり。
なんとおそれおおい。
部屋の中には、お花がいっぱいだった。
「ヘンリー卿がね、毎日お花をもってお見舞いに来てくださったのよ」
うふっと、お嬢さまが笑った。
なぜ、ヘンリー卿が。
「そうなのよ。毎日来てくださったの」
おかあさままで、うふっと笑う。
だから、なんで。
そう言えば、ずっとヘンリー卿に名前を呼ばれていたような気もする。
翌日お医者さまの許可が出ると、お城の侍女のみなさんが体を拭いてくれて、半身を起こして身なりを整えてくれた。
ぼーっとしていたら、国王陛下と王妃さまがいらっしゃった。
「ああ、そのままでよい」
あわてふためいたら、陛下が鷹揚におっしゃる。
ものすごくお礼を言われた。
……恐縮です。そんなにすごいことしましたかね、わたし。
それからルイーズさまもやってきて、涙ながらにお礼を言われ。
だから、そんなにすごいことはしていませんが。
王太子、ルーク両殿下も来るし。もちろんヘンリー卿とジョージ・クラーク付きで。
ヘンリー卿はきょうも花束を持参だ。
え? いま、王太子殿下を押しのけましたか?
「気がついてよかった」
「ご心配おかけしました」
「ほんとうに。ああいうことはおれたちにまかせなさいと、言っただろう」
そうでしたね。
「危ないマネは、二度としないと約束してくれるかな?」
「……はい、もうしません」
なんの約束でしょうね。おかあさまが、うんうんとうなずいているが。
それからさらに三日間リハビリ(?)を続けて、多少足を引きずるものの、自力で歩けるようになったわたしは自宅に戻ることになった。受けた衝撃が強かったので、全身筋肉痛の状態だった。おでこは擦り傷だった。
受け身も習わないとな。
おとうさま、おかあさま、それに兄までもが迎えに来て、侍女のみなさんが送ってくださる。
すれ違う人々が拍手をくれる。
なんで。
一応ちゃんとした服に着替えて、髪も結ってもらったものの、おでこにおっきい絆創膏が貼ってあるし恥ずかしいんですが。
シャーロットお嬢さまとルイーズさまがわざわざ見送りに来てくれて、居合わせた人たちの温かい拍手に送られて、わたしは会釈をしながらお城を出発した。
だから、なんで。皇族みたいじゃないか。
王家のみなさまが遠慮してくださって、ほんとうによかった。とてもじゃないけど、居たたまれない。
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