No.1ホスト、転生先の母親を口説く

全身水浸しになっても俺の状況は変わらなかった。

鏡に映るのは、毎日リタッチを欠かさずしている金髪に自信溢れる瞳、笑えばどんな女も堕ちるどこからどう見てもザ・ホストのイケメンな俺ではなく、毎日リタッチする必要のない美しい直毛金髪に吊り目の瞳、笑えばどんな男も怖がるどこからどう見てもザ・悪役令嬢な俺だった。


最近漫画でよく見る、転生したら〜だった件!?ってやつか、これ。どこにもカメラはないし、宣伝用のYou〇〇beとかでもないんだよなぁ〜これが。まぁ、うだうだ考えても仕方ないよな。とりあえず、水浸しの身なりをなんとかしてもらうのが先決か。


「あ、あの〜ちょっといいかしら。」

「お嬢様、いかがされました?中に入りますよって、え!?こ、これは何事ですか‥水浸しだなんて、風邪を引いてしまいます。お着替え持ってきますね。」


悪役令嬢の見た目の割にはメイドが優しく接してくれるのが不思議だな、普通悪役令嬢って怖がられたりしてんじゃないのか?そんな事気にしても無駄か。早く着替えて家族に会ってみよう。とにかく今は、状況把握が一番だから。


「あのぉ…ちょっと足を攣ってしまって、朝食の席まで付き添ってくれないかしら?」

「お嬢様、大丈夫ですか…?医者を呼んだ方が…」

「いえ、大丈夫よ。じきによくなるはずだから。それよりも早く行きましょう。」


このメイド、なかなかに可愛らしい顔をしている。見たところ、まだ20代前半ってところか?欠かさず俺の心配までしてくれている。そこは、メイドの義務ってやつなのかもしれないけど。もし、俺がホストだったら即ナンパして俺の姫にするところなんだけどな〜無理だよな。はぁ…とりあえず口調は姫の中でもお嬢様気質だった子の真似で乗り切れてはいるようだが…気を抜いたらホストの俺が出る。ここは慎重に慎重に…。


この悪役令嬢(仮)が住んでいる家はやたら広く大きく、食堂まで5分ほど歩いた。ドアの前には執事のような上品に髭を生やした白髪の男性が控えていた。


「お待ちしておりました。スカーレット様、皆様待っておいでです。」

「遅くなってごめんなさい。少し足を攣ってしまって…」


ガチャッ!!

開いた先にはクソほどでかい…じゃなくてとっても大きな机に3人が離れて座っていた。

おそらく正面に座っているのが旦那様、つまり俺の父親だろう。なんてったって、顔がそっくりだ…威厳のある彫りの深い顔、確かにイケおじとも言えなくもないが、雰囲気や俺と同じあの吊り目が周りを萎縮させる。そして左に座っているのが俺の母親だろう。全く俺と似ていない。強いて言うなら金髪ってところしか共通点が無いんじゃないかと言うぐらい似ていない。10代の娘がいるとは思えない美しさと気品を兼ね備えた優しそうな人だ。それに身につけている装飾品も派手ではないが、一級品だと分かるものだ…要するに…


スタスタスタ…

「お、お嬢様?もう足は大丈夫なのですか?お、お嬢様?急に走られてはまた足が…」

「マダム、遅れてすみません。でも、今宵は忘れられない一夜を貴女に送りましょう。さぁ、俺の手をとっ……あっ…」

「ス、スカーレット…よね?一体、何を…」


やってしまっったぁぁぁぁぁ!!つい、つい…母親(仮)を見てたら、極太客の特徴と当てはまるからホスト時代のクセで、跪いて手を差し伸べてしまったぁぁ。慎重とはなんだったんだ、朱音!!やばい、やばすぎる…空気が一気に凍りつきやがった。めっちゃ変な目で見られてるよ、ってか父親の視線痛いな、こわっ!嫁がナンパされたから怒ってんの?ねえ、怒ってんの??何も言わないのが一番怖いって…。なんて言い訳しよう、悪夢を見たとか?いやいやいや、無理しかない…なんて言うか、そう言う気分とか?…ダメだダメだ、どうすれば…。


俺の転生、もう早々に詰んでね…?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る