来年の話。

「よし、忘れ物なし」

 あっという間に夏休みに入って、とうとう東京に行く日がやってきました。1人旅にワクワクしているけど、しょー君やふーがさんに会えることが

何よりも楽しみ。新幹線の中で色々と作業をしていると、あっという間に東京についていた。朝早くに行くというと、車でしょー君が迎えにきてくれることに。

「…あ、いたっ。おはよう!」

「おはよう夏月〜」

 と、いつものように抱きついてくる。人の少ないところで待っていてくれたとは言え、ここ東京やで?

「もー色々と危ないから離れて!」

 渋々離れて…というかほぼ離れてない状態のまま、車まで連れていってもらう。

「あれ、しょー君車変えたん?」

「ん?変えてないよ」

 …こんな車やったけ?昔の記憶を呼び起こしていると運転席から誰かが出てきた。

「…え、ふーがさん!?」

「なっちゃんおはよう。荷物もらうね?」

 スマートに重い荷物を車の後ろに積んで、ドアまで開けてくれる。

「あ、ありがとうございます…」

 2人とも今日はお昼から仕事らしく、一緒に迎えにきてくれたのだとか。

「…夏月本当に1人で東京歩くの?」

「面接やねんからしゃあないの!心配せんで大丈夫やから」

 しょー君は、心配かけすぎるとついていくとでも言いかねない。

「勝も俺も、明日は1日撮影だけど、明後日は午前だけなんだよ。3人で出かけない?」

 運転席のふーがさんがミラー越しに目を合わせてくる。

「…お2人が絶対バレない変装してくださるのであれば是非お願いしたいです」

どこへ行っても人しかいない東京で、2人が週刊誌にでも撮られたら大変だ。私が叩かれる事があっても、迷惑をかけることだけはしたくない。

「はい、着いたよ!」

「ありがとうございます!」

 しょー君のマンションに着くと、ふーがさんは私のキャリーバッグを持って部屋に向かい始めた。

「えっ良いですよ自分で持ちますよ?」

「いーからいーから。女の子はそういう事気にしなくていいの」

 しょー君以外の男性に、真正面から女の子扱いされることに慣れていないので、急に我に返って恥ずかしくなる…

「うわ…相変わらず散らかってますね」

「いやこれでも片付けたわ!」

 昔から片付けの苦手なしょー君の事なので、分かっていたけど…広々としているはずの部屋が狭く感じるくらい散らかっている。

「今日は元々、泊めてもらうお礼に掃除しようと思ってたんやけど、良い?」

「…お願いします。家の鍵持ってるよな?」

「うん!」

 いつでも来ていいよって、結構前に合鍵貰ってたけど本日初解禁だ。

「ふーがさん運転ありがとうございました!また明後日、楽しみにしてますっ」

「どーいたしまして。俺も楽しみにしてる!」

 しょー君に触ってほしくない場所だけ聞いて、2人を仕事へ見送った。

「さてさて…」

 大掃除…とは言っても、元々あるであろう場所に戻されていないのでものであふれかえっている状態な為、集中すれば一瞬で終わる。1時間もかからずに終わってしまって、今日1日どう過ごそうかと考えながら冷蔵庫を開ける。

「うぉ…流石しょー君」

 中にはミネラルウォーターとビール、抹茶のお菓子しか入っていない。料理しないの知っていたけど、ここまでとは。止まらせてもらってるし、せっかくやから何かご飯作って待ってようかな。外で食べて来たなら、私が帰った後にでも食べてくれればいい。ただ…

「…都会や」

 スーパーに行くまでの道中、周りのビルやお店をキョロキョロとしていると、自分の住んでいる街とは比べ物にならないほどの光を感じる。その代わりに空気は少し重たい。汗だくで家に戻ってしょー君の好きなものを作って。我ながら仕事が早いと思う。





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