「…夏月」

「…ん。んぇ」

 しょー君の声で目が覚めた。朝早くから新幹線に乗り、せかせかと動いていたので、気づいたら眠ってしまっていたようだ。

「料理までしてくれたんだろ?」

「うん~、料理したかっただけやで」

「色々してくれてありがとな、疲れたんじゃない?」

「んーん、寝たから大丈夫!」

「んふふっ、なっちゃんまだ全然目覚めてないね」


…なっちゃん?


「…なっちゃんって、え、な!?」

 しょー君だと思って話していたのは…ふーがさんでした。

「俺のモノマネ上手かったっしょ?」

「上手くねーわ!ただ夏月が寝ぼけてるだけだから。おはよ」

「おはよう…いや、ふーがさんすみません普通にしょー君やと思って話してました…」

 なんたる失態。うんとか、普通に言ってしまっていた。

「いーよいーよ!俺が意地悪しただけだからね」

「本間意地悪ですよ?!…あかん手汗が、」

 ふーがさんのモノマネの出来はともかく、寝ぼけている時は無暗に話をしてはいけないな。

「ごめんね?それにしてもなっちゃん凄いね!勝の部屋とは思えないくらいピカピカじゃん」

「そうですか…?多分しょー君が汚くし過ぎなだけやと思いますよ」

「おいおい、2人して俺ディスんな」

 2人と話しているうちにだんだんと頭がさえてきて、視界もはっきりしてきた。

「ご飯食べてきたん?」

「いや、図々しくも夏月が作ってくれてんじゃねぇかなって期待にかけて帰ってきた」

「じゃあ期待に応えられた!

ふーがさんも、良かったら食べて行ってください。作りすぎちゃったんで」

「え、いーの?せっかくの2人の時間なのに俺邪魔じゃない?」

「全然!久しぶりにお話ししましょうよっ」

 たまに電話がかかってくることはあったが、こうやって顔を見ながらお話をするのは久しぶりだ。こういう時間は大切にしたい。


「いただきます!」

「いただきまーす」

 ご飯を食べ始めてから食べ終わるまで2人ともお酒を飲んだのか?と疑いたくなるほどに私の料理をほめちぎってくれて、変に居心地が悪くなった…


「じゃあなっちゃん明後日ねっ。ご馳走さまでした」

「はい!」

 明日は朝から仕事みたいで、ふーがさんは早めに帰って行った。

「なんか、2人で話すの久しぶりだな」

 昔からしょっちゅう会っていたわけじゃないけど、電話したり、しょー君がうちに泊りにきたりすることがよくあった。

 本当のお兄ちゃんみたいだけど、いい感じの距離感。私にとってとても大切な存在なのだ。この距離が仲良しの秘訣なのかも。

「最近は3人が多かったからね」

「毎日忙しいの?」

「しょー君達に比べたら全然やって~」

「俺らは社会人。夏月は学生にしては忙しすぎんだよ。この前も早退したってふーがから聞いたし…」

「げ、聞いたん?」

 どうやら私は忙しいらしい。特に自分では感じたことないから気にしていなかったのだけど。

「本当に無理すんなよ?どうせ夏休みバイトとかで予定詰め込んでんだろうけどさ。この3日がゆっくりできる日なら、ずっと寝ててもいいんだぞ?」

 うちのお母さんは良い人過ぎてこっちが心配になるくらい心配性だが、しょー君も中々なものだ。なんなら母以上。


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