ふぁ…眠…。ただ今、日曜日午後8時。目の前に出てくる良い匂いのするあったかい料理を客席へ運んではレジを打ってと、1人でバタバタしている。

 楓夏月、ファミレスで絶賛アルバイト中です。

 今日はなぜかアルバイトの人数が少なく、そのおかげか忙しく店内を行ったり来たりしていた。

「まーたあくびしてんのかえちゃん」

「え?見間違えちゃいます?アクビッテナンデスカ」

 そう言って私の顔を覗き込んできたのは2つ年上の谷村さん。彼はアルバイトに入った時期が一緒で、働き始めた時から仲良くしてもらっている。

「食器片付けてるから、案内よろしく」

「はーい…いらっしゃい、ませ…」

 直後にお客さんの入る音がしたので、元気よく出て行くと、

「よ!食べにきた」

 聞きなれた声が聞こえたので、そのままUターンしてバックヤードに戻ろうとしたら掴まれる腕…

「おいおいなんで戻んだよ!」

「いや…いくら田舎って言っても目立つで?」

「でも今なら大丈夫だろ?」

 新しいお客さんの正体は、しょー君と…ふーがさんだった。ピークを過ぎた店内にはちらほらとしかお客さんがいないので、大丈夫ではあるのだが…

「…じゃあ案内します。ご新規2名様入られますっ」

 アイドル好きな子がシフトに入っていないことを確認して、2人を端っこの席に案内した。

「なっちゃんかっこいいね」

「…恥ずかしいんで、あんまり見やんといてくださいね?今日はお仕事やったんですか?」

「そうそう、ラジオ収録終わったところ。それでなっちゃんが今日バイトだっていってたから、勝が連れてきてくれた。」


…そうやん。自分で話してたやん。



 初めてふーがさんとあった日の夜、

“今日は楽しかったよ!また遊ぼうね”

 って連絡が入ってて、そこからたわいもない会話が毎日続いていた。

友達から「夏月返事するの遅い!」って言われ続けてるから、最近は早く返す努力をしている…つもり。それで一昨日、突然ふーがさんから電話がかかってきた。


「…もしもし?」

「あ、でた!ごめんね急に。今大丈夫?」

「はい!お久しぶりですね」

「久しぶり…っても毎日連絡してるけどね?声聞いたのはあの日以来か、元気そうでよかったよ」

「めっちゃ元気ですよ!ふーがさんもお元気ですか?」

「俺もめっちゃ元気よ。今何してる?」

「今ちょうど学校から帰ってきたとこですね」

「じゃあナイスタイミングだったわけか」

「…今日はどうしたんですか?」

「え?」

「いや、電話とか珍しいんで、なんかあったんかなぁって…」

「あぁ…んー、ちょっと声聞きたいなって思ってさ。勝がこの時間なら電話出てくれると思うって教えてくれたから」

 

 なんてアイドルらしい言葉にドキッとさせられたけど、これが大人の余裕ってやつか…と感心していました。その電話の流れで今日がバイトだと伝えてたんやった。まさか食べに来るとは思わんかったけど…

「え、こんなに種類あんの、」

「ファミレスやからね」

「これは迷うね…なっちゃんのおすすめは?」

「んー、このセットはめっちゃ人気ですね!胃もたれしないようであれば天丼が一番美味しいです。」

 私は必ず胃もたれするけど、天丼が好き。

「じゃあそれにしよっかな」

「俺もそれにするわ」


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