一目惚れした日の話

俺たちの出逢いは5年くらい前。始まりは俺の一目惚れだったんだ

「あ、しょーくん」

「久しぶり、まーた可愛くなったか?」

 なんて仲睦まじい会話を繰り広げているのは、同じアイドルグループのメンバーの勝。そして、

「ふーが、こいつが夏月」

「はじめまして!楓夏月です…よろしくお願いしますっ」

 勝のの従兄弟なんだと聞かされていた夏月ちゃんを一目見た瞬間、彼女の醸し出す雰囲気から全身に電流が発生した感覚がした。

 昨日と明日は関西でライブ公演があり、1日だけオフの日があったので2人で夏月ちゃんの地元を案内してもらうことになっていたのだ。

 人見知りなのに。一目惚れしたくせに。内心動揺しまくっているくせに。

 こう言うときに冷静でいられるのは、アイドルっていう職のおかげかもしれない。

「…はじめまして、知ってるとは思うけど、深加瀬響です。よろしくね?」

「よろしくお願いします!テレビでたくさん拝見させていただいてます」

 シンプルな服装に、語尾にビックリマークがつきそうな元気さ。凄い大人っぽく見えるけど、ニコッと笑うときに見える幼さがとても可愛い。

「“なつ”ちゃんって呼びにくいですよね?どんな呼び方でも大丈夫ですので!」

「じゃあ、なっちゃんにしよっかな。俺はふーがでいいよ?」

 なっちゃんに対して大変に過保護ならしい勝は、なっちゃんを俺との間に入れて歩き出した

「今日暑いですよね〜」

「本当暑いね」

 彼女は驚くべき非人見知りで、初対面を感じさせないような接し方で一目惚れの緊張から少し解放された。

「なんか冷たい物食べたくないですか?」

「おっ、いいじゃん」

「ちょいちょい、ふーがばっかに話振んな、」

「だって、しょー君抹茶のあるとこならどこでも良いやろ?」

 どうやら過保護なだけじゃ無く、なっちゃんのことが大好きすぎる様子の勝。

「あーもう当たり前に手繋がんといて?撮られたらどうすんの?!」

「これだけ人少ないんだから大丈夫だろ」

 まぁ確かに、それほど都会じゃないしさらに平日。記者がいたり盗撮するような人もいるようには思えないけど…勝の手を引っぺがして、2人の間から俺の隣へ避難してきたなっちゃん。

「しょー君の隣はふーがさんにお譲りします」

「ふはっ、うん」

 本当の兄弟のような2人の関係を少し羨ましく思いながら、なっちゃんイチオシのかき氷屋さんに連れてきてもらった。

「しょー君は抹茶しか選ばんと思いますけど、ここのオススメはフルーツ系ですっ。他にもめっちゃ種類あるんですけど、どれします?」

 敬語でも溢れ出す関西弁がとてつもなく可愛いくて、一言一句聞き逃すまいと耳を立てる。

「えー、じゃあこのパイナップルとイチゴのやつにしよっかな」

「俺抹茶」

「私これにする!」

 席は一つ一つ区切られていて、サングラスや帽子を外しても周りからバレる心配が無かった。こんなにもオープンに女の子と同じ席で食事をするなんか冷や冷やするけど、びっくりするほど落ち着ける。

「デカ!?」

「でかいですけど、ここは体冷えんくて、頭もお腹も痛くならんのが、このお店の凄いところなんです」

 お盆の上に乗ったかき氷は想像していた倍はあった。言われた通り、全くキンと来ない…それに、

「うんま、」

「本間ですか?良かったです!」

「抹茶もうまいよ」

「私のもめっちゃ美味しいですよ、食べてみてくださいっ」

 隣に座っているなっちゃんが、普通にスプーンを差し出してくる…これって、普通にもらって良いやつなのか?

「ふーが、こいつそんなこと考えてないから大丈夫」

「あー…」

「…えっなんの話?」

 特に気にしている様子もなく、なっちゃんが鈍感無垢なことがわかったので、遠慮なくそのスプーンを貰った。

「ん、これも美味いね、レモン…なんとかだっけ?」

「んふっ、そうです!私、柑橘が好きなんですっ」

 大きなかき氷を、本当に美味しそうに食べる彼女は、人懐っこいワンちゃんのようでぎゅっと抱きしめ潰したくなるほどに可愛い…

「ふーが見過ぎ」

「…は?い、いや見てねーし」

 楽しそうに食べるなっちゃんを無意識のうちにガン見していたみたいで、勝にバレてしまった…当の本人には気づかれていなくてよかった。




「んー美味しかった!」

「喜んでもらえて良かったです」

 勝は、なっちゃんをしっかり俺らの間に戻して街を観光し始めた。

「…そういやさ、なっちゃんはいくつなの?」

 大学生とかかな?いや、めちゃくちゃしっかりしてるし社会人の可能性もあるな…

「多分ふーがが思ってるよしも下だと思うよ」

「え?」

「私、今年で17です!今高3です」

「…ぇえ!?嘘でしょ、」

 高校生、?JK?嘘だろ、

「あははっ、私結構老けて見られがちなんで」

「いやいや、老けてるとかじゃなくて、凄い、大人っぽすぎて…なんか、凄いね?俺らの高校の時なんか、精神年齢なっちゃんの半分だったよ?」

「俺も一緒にすんな。まぁ確かに、夏月はいい意味で大人っぽいからな。」

 まさにその通り。いい意味で大人っぽいという言葉がぴったりだ。27歳の俺や勝からしても、なんら変わりない。

「学校でもモテモテだって聞いたぞ?高校だけで何回も告白されてるって」

「…誰に聞いたんそんなこと」

「陸。この前東京来てたから、その時にな。あ、ふーがも知ってるだろ?朝日陸。2人小学校から一緒で、高校も学科違いなんだよ」

「…そうなの?!」

「ついでに言うと、咲も同じです」

 陸は、同じ事務所の後輩だ。関西で活動しているので、滅多に会う事はないのだが、勝はなぜか仲がいい。そして咲は陸の2つ下の後輩で、2人は同じグループで活動している。

「…なんか、いろいろとすげぇな、」

まさかそんなところまでつながっているとは…。世間は狭いとはこういうことか。

「もう私の話は終わり!」

「ふはっ、はいはい。あ、やべ…俺ケータイ充電切れたわ。夏月、なんかあったときのためにふーがと連絡先交換しといて?」

 凄いナチュラルな流れでいいこと言ってくれたね勝くん…!

「…私こんなにアイドルと連絡先交換してたら呪われたりせん?いつかファンの人達に刺し殺されそうなんやけど、」

「なにそれ!大丈夫だよ。はい、俺のコードね」

 なっちゃんは、関西特有の面白さをしっかり持ち合わせているので、話していて面白い。うちにも関西出身のメンバーがいるが、同じ匂いを感じる。

「ありがとっ」

「ありがとうございます!」

 この時、勝がニタニタ嬉しそうに笑っていた事に全然気づかなかった

まぁ今幸せだから良いんですけどね?



 いろんなところを見て回って、いろんな話をして。あっという間に17時になっていた。そして、このあっという間の間に、どんどん彼女の事が好きになっていくのが見に染みてわかった。

 ちょっとした気遣いや優しさ、語尾にビックリマークの付きそうな元気。話していると、自然に顔が緩んでしまうような可愛らしさ。

 惚れるって恐ろしい…


 なっちゃんの気遣いで、夜ご飯は人がいっぱいになる前に済ませてしまおうと言う事で早めに済ます事に。


 一目惚れしただけでなく、全てにおいてこの子が好きだ


「なっちゃんが連れてきてくれるとこと、全部美味しいね」

「へへっ、良かったです!」

「夏月びっくりするほど食通だから。でも俺的には、夏月の作るご飯が一番美味しいよ」

「え、しょー君私の彼氏なん?」

 2人は普通に流してるけど、

「料理得意なの?」

「…得意、とまではいかないですけど、」

「得意じゃんかよ、高校で調理師取れる学科でさ、この前なんか全国大会で優勝してたんだからな?」

「すげーじゃん!何の大会出たの?」

「…卵を使った料理のコンテストです。もうしょー君、それ以上恥ずかしいから言わんとって!」

 耳を赤くして勝を睨んでいるが…全っ然怖くないむしろ可愛さ増したし?また彼女の新しい情報が増えた。しかも料理が得意とは…

「今度料理食べさせてね?」

「…気が向いたら。」

 勝によると、なっちゃんは自分の話が苦手らしい。自分の話になるとすっごい恥ずかしそうにしたり、切り上げようとする。無意識なんだろうけど、それが謙虚でいいと思ってしまうのは重症なのだろうか。

「あ、忘れとった…」

 カバンをガサゴソして、俺と勝に1つづつ袋を渡してくれた

「しょー君もふーがさんももう直ぐ誕生日ですよね?高校生なんでこんなものしか渡せんけど、良かったら貰ってください…」

 小さな袋の中には、それぞれメンバーカラーがあしらわれたアンクルネット

「かわいい…本当に貰って良いの?」

「はい!そんなにいいもんちゃうんですけど…」

 ありがとう夏月〜と抱きつく勝の腕から抜け出そうと必死のなっちゃん。

「もー力強い!ふーがさん助けてぇ…」

手を引っ張って溺愛勝君から助けてあげる

「ありがとうございます助かりました…」

「いえいえ、こちらこそありがとう!大切に使わせて貰うね」

少しはにかんで頷く姿が何とも愛らしくて、思わず頭を撫でてしまった。我に返ってヤバイと思い、直ぐに手を引っ込めたが、勝のベタベタに比べたらマシだろうと開き直った。


「2人とも明日早いんですよね?」

「早いっても、夏月の起きる時間のほうがうんと早いから」

「そう?早起き好きなだけやで」

 なんてたわいもない話を聞いたり、話に混じったりして幸せな時間を過ごしていると、すぐに駅に着いてしまった

「なっちゃんはどの電車乗るの?」

「これです!逆方向なんです」

 確かにしっかり反対方向の方面だ、

「送ってくよ?」

 こんな可愛い子をほったらかしてホテルに帰るとかできないでしょ。

「え…⁉いや、大丈夫ですよ?2駅やし…」

「こんな時間に女の子1人は危ないって。な、勝?」

「だよな?そのくせに、いつも頑なに送らせてくれねえんだよ。何で?」

 どうやら、勝が遊びにきた時も拒まれるらしい。最終的には強行突破で送っていっているらしいけど。

「だって…なんか別れ際って寂しいやん、?自分が見送られるの悲しいし…それに、今日はふーがさんも居ってめっちゃ楽しかったから、そのままの気持ちで帰りたいなぁ…って…」

 …何それ可愛すぎだろ可愛いなぁおい。その気持ちは勝も同じみたいで、またまたぎゅっと抱きついている

「ほーんと可愛いなぁお前は!」

「もぉー暑い力強い無理!ふーがさんヘルプ…」

 ついさっきまでの俺なら助けていた。けど、

「ごめん可愛いから助けられない」

 勝と2人でなっちゃんを挟むように、俺も一緒になって抱きついた。

「えっ何…待って2人とも背高すぎるから潰れるって!」

 1分くらいその状況を楽しんで離れると、

「…疲れた」

 178センチの俺と180センチの勝に挟まれたなっちゃんはクタクタになってしまっていた。

「ごめんね?」

「ごめんごめん」

「…ふーがさんはかっこいいから許します」

「なんでだよ俺は!?」

 笑って誤魔化しはしたけど、急にかっこいいと言われて心臓がうるさくなった。そんな俺を見た勝は、ニヤニヤすんな!と顔をつねって来たが、そんな痛さも気にならない程に浮かれている。結局…というか強引になっちゃんを家の近くまで送り届けることになり、更に人気の無くなった駅にたどり着いた。

「はい夏月、お別れのハグ」

「えぇ…まだすんの?」

 これは2人の中で恒例行事らしく、これをしないとお別れが出来ない事になっているらしい。なっちゃん的にはさっき俺たちに挟まれたことがそのカウントに入っていたみたいで、ほぼ強制的に、勝に引き寄せられている。

「…今日はありがと。久しぶりに会えてめっちゃ嬉しかった!」

「俺も楽しかったよ」

「ふーがさんもします?…うわ⁉ビックリした…」

 彼女が両手を広げて聞いてきたので、その腕に素直に答えれば、なぜかビックリされてしまった。

「ふはっ、なんで驚くの?」

「まさかほんまにすると思わんくて、」

 少し恥ずかしそうにしながらそう言っていたが、一瞬だけギュッとしてくれた。

「ふーがさん今日はめっちゃ楽しかったです!またこっちにきた時はご飯行きましょうね?」

「もちろん。俺も楽しかったよ!また行こうね」

 最後に最高の笑顔を見せてくれた彼女の背中を見送り、俺たちもホテルへと向かった。





「夏月、可愛いだろ?」

「…あれはヤバイ。めちゃくちゃ可愛いよ、」

 今日1日で、なんだ可愛いと思った…いや、言ってた?本当にやばいぞ、17歳のJKに惚れ込むとかかなりヤバい。

「夏月はメッセージ返すの遅いけど、嫌われてるわけじゃないから安心して連絡しろよ〜」

 …こいつ、わざと連絡先交換させたな。まぁ感謝してるけど。


 この時、厄介な一目惚れをしてしまったかも…と頭を抱えていたが、今ではあの自分に感謝だ。


あの1日で、俺の人生がこんなにも色濃くなるとか、思わなかった。

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