第8話 触れてはいけない領域

 わたしと朝耶ともかは、カーン大佐が待つ管制室へ戻る。

 カーン大佐は、尋問室での音声記録を再生させて渋い顔をしていた。わたしと朝耶に視線を移したのは、何か助言を求めたくなったからだろう。


「何の事情も知らない民間人が、金目当てで地表へ降りて来る。そして化獣にちょっかいを出す……と言う状況ですかね」


「そうみたいですね。この冒険者と言うのが金目当てのだったりすると、この先で何が起こるか予測がつきません」


 カーン大佐は腕を組んだまま押し黙ってしまう。それから、険しい顔つきになり言葉を繋げた。


「軍が、どんな素材でも必ず買い取る……と言うのがひっかかります。まるで、金目当ての連中が地表に降りるのをような印象ですよ」


 そう言えば、冒険者たちは『軍の仕事』と言っていたのだっけ。惑星環境再生機構とは、別の系統で動いているのだろうか?


「それとも……軍が、金に糸目をつけずに化獣の研究に取り組むつもりになったのか、ですね。そうなると、宇宙圏は化獣の能力を軍事利用するつもりと考えられます」


「軍事利用……ですか?」


 カーン大佐の言葉に、わたしも気色ばんでしまう。


「レーダーを妨害する電磁波ならステルス技術に応用できるかも知れませんし、強固な外殻も装甲板として利用できるかも知れませんね」


「そうですね」


 カーン大佐に話を合わせながらも、わたしは心の中で「いや、本当の価値はそんなことではない」のを知っている。

 わたしの義手や義足が化獣の組織を使って造られているのは、実は同盟国にも知らせていない極秘事項である。わたし達の都市国家ポリスザンキでは、化獣の組織を利用する研究は秘密裏に行われている。


「しかし、そうなると地表圏も同じ装備をしないといけなくなります。地表圏の人間で、また化獣と争いを起こすのは避けたいですね」


 カーン大佐の懸念は、化獣と生存圏を分けることで得られた平穏を失うかも知れないと言うことらしい。意外と優しい人だった。


「郷崎博士は、どう見ておられますか?」


 不意に、カーン大佐が朝耶に話を振った。いや、この男から人間らしい見解なんて絶対出てこないぞ。


「私が口にしても説得力はないのだが……人が触れてはいけない領域はある。おそらく、化獣はその領域にあるモノだと考えている」


 うわ……化獣の領域に、触れるどころか全身で飛び込んだモノが言うか?


「そう思います。郷崎博士がそう仰って下さるのは心強いですよ」


 カーン大佐が納得しているみたいだから、わたしがツッコミを入れるのは止めておく。

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