第2話 惑星環境再生機構

 巨大な隕石が地表に衝突したカタストロフは、人類の宇宙進出を急激に加速させた。当時、既に衛星軌道上の宇宙コロニーは存在していたが、以降その数を増して多数の人間を宇宙に送ることになる。宇宙に進出人類は、今では他天体からも資源採取を行い、生活圏を惑星間規模に広げている。

 しかし、全ての人間が平等に宇宙に出られたわけではない。力のない勢力は地表に置き去りにされ、激変した環境の中で細々とこれまでの文明を繋いできた。

 今の地表には、国境で境を区分する領域国家はない。

 人が集まった場所が都市になって自治を行う。小規模な都市国家ポリスが、点々と散らばり、時に戦争したり同盟したりしながら、緩く繋がっている。



 宇宙に進出した勢力にとって、地表は『見捨てた土地』だったはずだ。しかし、最近になって宇宙圏の勢力は「荒廃した母なる大地を在りし日の姿へ再生する」と言う計画を明らかにしたらしい。そして、その計画の執行機関が惑星環境再生機構……わたし達は俗称で『機構』と呼んでいる。

 この計画は宇宙圏だけの勝手な計画であって、地表に存在するどの都市国家ポリスも関与していない。しかし、宇宙圏から地表へ降りてくる者たちが増え、更に勝手に地表を引っかき回してくれるので無視するわけにもいかなくなっている。



 特に、化獣に対する問題は深刻だ。化獣の中にはとんでもない破壊力を有する個体が存在する。たった1体でも、都市国家ポリスを消滅させるような……。


「宇宙圏の強化服歩兵パワードインファントリーらしいから、機構が関わってるのは間違いなさそうね」


「地表圏のどの都市国家ポリスだって、化獣には手を出さない。化獣を攻撃する馬鹿は宇宙圏の連中だけだ」


 朝耶ともかは、一言で言えば変人なのだが、この地上で最もに詳しい天才科学者でもある。まあ、宇宙圏に朝耶以上の科学者がいるとは考えられないので、実質的に宇宙で一番化獣に詳しい科学者だろう。


「化獣と都市国家ポリスを衝突させて、地表の浄化でもやるつもりかしら?」


 宇宙圏の連中は、地表に自治を行う国家が存在していることを認めていない。宇宙圏の地表へのイメージは「モヒカン頭がバイクに乗って、ガソリンや食物を奪い合ってる世界」である。

 宇宙圏の法律では、地表に生きているわたし達は「宇宙に脱出し損なった難民」と言うことになっているらしい。


「確かに。宇宙圏の連中が地球に戻ってくる気なら、我々を消毒と称して焼き払ってもおかしくはないな」


 わたしは冗談のつもりだったが、朝耶は可能性のある話として受け取ったようだ。

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