冒険者 あるいは 和を乱す者 -化獣戦記-

星羽昴

第1話 ドラゴン

 都市国家ポリスヴォルガ。

 その外縁部防壁にある物見塔から、わたし達2人はGエリアに視線を向けた。

 数百年前、この惑星に巨大な隕石が衝突し、世界は崩壊する一歩手前までに混乱した。その衝撃で活発化した地殻変動は、地表の地殻プレートを一年にメートル単位で移動させている。場所によっては地図の作製が追いつかないとも言われる。

 その隕石衝突の爆心地を、わたしたちは『Gエリア』と呼んでいる。



 朝靄の向こうの地平線が発光した。その光の方向を双眼鏡で覗き込むと、数機の強化服歩兵パワードインファントリーがドラゴンを囲んで攻撃している。発光して見えるのは、強化服歩兵パワードインファントリーが撃ち出すレーザー砲らしい。


「ドラゴンよ!」


 わたしは隣にいる兼恋人の郷崎こうざき朝耶ともかに声をかけた。

 数百年前の隕石衝突の爆心地に突然出現した生きモノ。あらゆる意味で生物の常識を凌駕したモノを、わたしたちは『化獣』と呼ぶ。化獣には、空想上の幻獣の名を与えてその種別を分類している。

 ドラゴンもその種別の一つで、蛇のように長い姿態に細めの腕と脚がはえている。人間を頭から飲み込めそうな太さの胴体は、頭から尾の先までなら10メートルを超えるものもある。

 ドラゴンは本来おとなしく攻撃力も小さいため、化獣の中では警戒度は低い。それでも、人間にとっては十分危険な生きモノだ。


「何と戦っている?」


 わたしは朝耶に双眼鏡を渡した。まだ距離があるので確信はないが、宇宙圏の様式の強化服パワードスーツで間違いないと思う。


「装備がバラバラだ。動きも統制が取れていないな」


「そうなの?」


 朝耶から双眼鏡が戻ってくる。もう一度、地平線の光っている辺りを覗き込む。


「5機かな? 強化服パワードスーツの年式も型式もバラバラみたい」


 強化服パワードスーツの型式を統一させないと、メンテナンス効率が悪い。思い付きや勢いで化獣に挑むなんて無謀すぎる。

 そして……ドラゴンと強化服歩兵パワードインファントリーは、こちらへ向かって移動しているようだ。発光する閃光は、間違いなく近づいている。


「いきなり、を引いちゃったみたいね。わたしたちも準備が必要になりそうよ」


 朝耶とわたしは、エレベーターに向かって歩き出した。



 わたしに名前はない。取り敢えず、コードネームでエリスと呼ばれている。

 都市国家ポリスザンキからヴォルガへ派遣されたエージェントだ。ザンキとヴォルガは同盟関係にあり、ヴォルガが深刻な危機に直面していた。

 もし、報告の通りなら・・・あのドラゴンは、ヴォルガの外縁部防壁まで誘導されて来るはず。

 ・・・何のために?

 それを調査するために、わたしと朝耶はヴォルガへ来た。

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