第3話 防衛隊管制室

 都市国家ポリスヴォルガの外縁部は、高く頑丈な防壁で囲まれている。Gエリアに直接面しているヴォルガにとって、化獣が来襲する恐怖は切実なものだ。

 過去に都市内に化獣の侵入を許してしまった事件は幾度かある。その度に、外縁部の防壁はより強固なものに改修されてきた。



 外縁部防壁には、18センチ砲弾を連射できる砲門が上段部と中段部に設置されている。また、都市防衛隊のもあって、一定数の強化服パワードスーツパイロットが、常にローテーションで待機している。


「ミス・エリス。管制室の方へご案内します」


 物見塔からのエレベーターを降りて防衛隊詰め所に向かう途中で、防衛隊指揮官のレイド・カーン大佐に迎えられた。わたし達は、詰め所ではなく管制室の方へ案内される。


「ドラゴンは、5機の強化服歩兵パワードインファントリーに追い立てられるようにして、こちらへ向かっています」


 管制室の大量に並ぶモニターには、防壁に儲けられた3箇所の物見塔から撮られた映像が映されていた。


「ドラゴンが、防壁の18センチ砲の射程圏に入りました。砲撃を開始します」


 化獣の外皮は、半透明なクリスタル質の外甲殻になっていて強固だ。更に化獣は、その生体活動において特殊な電磁波を放出している。その電磁波は、レーザーやビームのような光学兵器に干渉して威力を減衰させてしまう。

 そのため、化獣にはレーザーやビームのような光学兵器よりも、炸裂弾を使用する従来兵器の方が有効だ。


「宇宙圏の強化服歩兵パワードインファントリーは、砲撃が始まった途端に距離を取ったみたいね。追いかけられるかしら?」


「追跡させています」


 カーン大佐にも抜かりはないようだった。

 全長10メートルのドラゴンの巨体が、砲火に包まれる。クリスタル質の外甲殻が一部砕けて、ドラゴンの周囲で朝日を反射してキラキラと輝いて見えた。

 砲火を嫌ったドラゴンが方向を変える。それを見て防衛隊長カーン大佐の顔に安堵の色が浮かんだ。しかし、まだ油断はできない。


「宇宙圏の強化服歩兵パワードインファントリーは?」


 5機の強化服歩兵パワードインファントリーはドラゴンを追いかける様子を見せない。逆に、ドラゴンが砲撃を受けていた地点に5機が集まって地面の上を探っている。


「彼らは何をしているのかしら?」


「連中……ドラゴンの身体から砕け落ちた破片を拾っているんだ」


 モニターに拡大された映像を視ていた朝耶ともかが言う。


「え?」


強化服パワードスーツで出てくれ。宇宙圏には化獣のサンプルを渡したくない」


 カーン大佐に、詰め所から強化服歩兵パワードインファントリーを出撃させて貰うことにする。そして、わたしも向かう。

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