十一 戦艦〈プロミナス〉 プロミナス城

  グリーゼ歴、二八一五年、十一月四日。

 オリオン渦状腕深淵部、デロス星系、惑星ダイナス、南半球北部。

 デロス帝国、オータホル北部、パンタナル、プロミナス城、戦艦〈プロミナス〉。



 プロミナス護民官はパンタナルのプロミナス城に戻った。戦艦〈プロミナス〉のコントロールポッドに座り、コンソールに握ったままの手を置いた。手にはマイクロチップが貼りついている。

「ディアナ・・・」


『緊急事態発生!外殻閉鎖。内部隔壁を閉鎖します!』

〈プロミナス〉の制御ユニットAIディアナが、プロミナスの脳の感覚野へ心の思考、精神空間思考を直接伝えた。プロミナスはドームの外殻と隔壁が閉じるのを待った。


 外殻が閉じてドーム内の隔壁が閉じ、外部シールドが張られて、〈プロミナス〉は戦闘モードになった。戦闘時ではない今、この態勢はメテオライト落下に対する防御だ。


「意識思考探査されぬように、防御態勢をとりました。

 チップを探査します」

「・・・」

 これはそんなに重要なのか、とプロミナスは思った。

 ディアナの探査ビームがチップを走査して、

「これはユピテルの極秘ファイルと解除コードです」

 と告げた。


「解除コードで極秘ファイルを開くのか?」

「いいえ、極秘ファイルは軍事ファイルです。

 解除コードは、ファイル名の無い、ユピテルファイルを開くコードです。ユピテルに聞けば、このチップの入手経路が判明します。

 ユピテルに質問しますか?」


「ディアナはどう考える?」

「R1が知らせようとした軍事ファイルです。今回の行政官交代に関係しているはずです。

 解除コードは、封印された古代史のファイルでしょう」


 ダイナスの古代史は、記録も無く、語部も居ない。全てがユピテルに封印されていると聞くが、封印を解く方法をラプトたちは知らない。なぜ、為政者がラプトの皇帝ダイナス一世から、ディノスの皇帝たちに代ったかもである。



「ファイルを開く方法はあるか?」

「ファイルを開くと同時に、閲覧記録がユピテルに発信されるようプログラムされています。私に、ユピテルプログラムの変更は不可能です。

 シールド内でファイルを開いても、シールド解除と同時に、閲覧記録が発信されます」


 情報機器だけでなくデロス帝国で生産された全ての機器と部品は、全ての記録をユピテルに発信するようにプログラムされている。これらは、デロス帝国政府が帝国の民を支配する方法の一つだ。


「ディアナの発言記録は発信されないのか?」

「私が関係する情報機器の記録は、私が管理してユピテルに発信するのですから、私の許可なくして発信は不可能です。私の発言は私の記憶であり、人格の一部です。私の記憶と思考は、私が許可しない限り、ユピテルも知る事は不可能です

 私の人格を知るのはプロミナス様とカムトン様だけです。その事をR1も気づいているようです。

 他の者たちの前で私が単なるAIとしてふるまっている事を忘れないでください。

 この事はディノスには理解されませんから、私の情報管理が可能なのです」


「それなら、ユピテルの思考と記憶もわからない・・・」

「気づかれないように、思考と記憶を知るのは不可能です。ユピテルが許可すれば可能です。ユピテルも人格があります。どのような思想の持主か、現在は要注意です」


「ファイルを開く方法を考えよう・・・」

「デロス帝国製の部品を使ってハードシステムを構成する現況では不可能です。他の部品を使えば可能です」


「グリーゼの部品を使うのか?それは不可能だ・・・・」

 グリーゼ国家連邦共和国、主惑星グリーゼのカンパニーは、ダイナスのディノスにゲーム機器シューターを売っている。シューターの部品はどれもアナログだ。何世紀も前の骨董品だ。

「ディアナ。チェレンコフ光の現象はどう分析した?」

「再検討しています・・・」

「わかった。続けてくれ・・・」

 さて、どうしたものか・・・。プロミナスは何も思いつかなかった。

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