十 リブラン王国 戦艦〈オミネント〉

 グリーゼ歴、二八一五年、十一月四日。

 オリオン渦状腕深淵部、リブライト星系、散開惑星リブラン、南半球北部。

 リブラン王国、リブロット、リブロット城、戦艦〈オミネント〉。



 戦艦〈オミネント〉は惑星ダイナスから散開惑星リブランへ亜空間スキップした。リブラン王国リブロットの、リブロット城にある巨大格納庫の亜空間転移ターミナルに出現して、そのまま移動して係留された。

 散開惑星リブランは、採掘したロドニュウム砿石を頻繁に運びだすため、本来成されるはずの情報収集衛星防衛システムによる防御エネルギーフィールドから成る惑星防空シールドが成されていない。


「異常事態です。チェレンコフ光(亜空間スキップ光)と似た現象が現れています」

 戦艦〈オミネント〉のメイン制御ユニットAIディアナが伝えた。制御システムは戦艦〈プロミナス〉と同タイプで互いにシンクロしている。


 夜空一面に淡い光を放つ雲や、夕映えの色彩を放つ雲が拡がり、その中に、ざらついた蛍光を放つオーロラが〈オミネント〉の上空から、南東にある台地状のリブロス山の上空まで刻々と色合いを変えてたなびいている。

「またスターブリッジか?」

「そうです。ドームを閉鎖します」


「待ってくれ。このままだと危険か?」

 最初の異常事態は散開惑星リブラン赴任を命じられてダイナスを発進する直前だ・・・。皇帝ホイヘウスは疑り深い。帝国政府が何か送りこんだか・・・

 カムトンはそう思った。


「従来の亜空間転移なら危険はありません。本艦にはカムトン様の一族が乗艦しています。

 安全確保のためにシールドしてドームを閉鎖し、映像で確認する事をお勧めします」

「ここのままで様子を見よう」

「わかりました。シールドだけ張りましょう」

「そうしてくれ」


 オーロラから南東にある台地状のリブロス山の山頂へ、緑や紫の蛍光が柱状に降り注いだ。

「大気がプラズマ化して、電磁波と放射線を放っています。

 未確認の飛行体が出現すると思われます」


 リブロス山の山頂真上の淡くオーロラを放つ雲が、一際大きく紫色に輝た。山頂に降り注ぐ緑蛍光が緑紫色の輝きを放った。

 淡いオーロラを放つ雲から白紫色の眩い輝きが現れて、山頂へ舞い降りた。その直後、水が飛び散るように、山頂から眩い光が幾つも周辺へ飛び去った。


「リブロス山に、小型艦が降下しました!さらに小さな飛行体が発進しました」

「降下した艦の大きさを教えてくれ!」

「艦体は最大長十レルグほどです。形状は、グリーゼ国家連邦共和国防衛軍の円盤型ステルス戦闘爆撃ヴィークル〈V2〉五十レルグに告示しています」

 デロス帝国に円盤型の艦はない。



「誰が搭乗している?」

「探査対象を、探査ビームが透過しました。探査不能です」

「ドームを完全閉鎖してくれ。調査を考えよう」

「わかりました」

 ブリッジを覆うドームの外殻と内殻隔壁が閉鎖された。

 ブリッジの空間の隅にあった、時空間表示5D座標と4D映像が、ブリッジの空間全体に拡大した。座標上に〈オミネント〉を表す輝点が現れている。


「カムトン様。未確認飛行体が4D映像に現れません。5D座標にも存在しません」とディアナ。

「どういうことだ?」

「エコー現象です。他時空間の現象です。ミラージュ現象ではありません」

「どこか、わかるか?」

「しばらく、お待ちを・・・。

 五十光年で探査妨害されました。時空間と亜空間の波動残渣の確認は不可能です。考えられるのは、時空間エコーです。

 3D映像には記録できました」


 波動残渣は、時空間構成粒子の経時変化だ。AIはそれら時空間構成粒子の変化と痕跡を探り、過去に生じていた現象を再現する。時空間構成粒子の変化が、時空間から亜空間へ連続する限り、探査と空間現象の再構成は可能だ。



「波動残渣が消されたなんて事があるのか・・・。

 エコーは、どの時空間からだ?」

 カムトンは、エコーが平行時空間と他の時空間とのあいだで生じたと思った。

「この時空間における他宙域からの時空間エコーです。亜空間スキップに相当する移動時に生じた現象です」


「対処しなくていいか?」

 他宙域からの時空間エコーなど、カムトンは今まで経験がない。

「現在は問題ありません。変化がありしだい連絡します。

 危険回避のため、惑星防御シールドの展開を許可してください」

「許可する。シールドしてくれ。危険率は?」

「一パーセント未満です。ゼロではありません」

 どこかで小型艦が出動して、さらにその艦から小さな飛行体が発進した。そして、その状況の証拠が消された・・・・。

「いったい、何が起こってると思う?」

「データー不足です・・・」

 ディアナは沈黙した。

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