第一章 地獄の三階層

第1話

鉛のように重い体を起き上がらせ立ち上がる。

首に手をまわし、触れる。首は繋がっていた。

あの時確実に、あの男の刃は確実に首を切り落としたはずだったのに、今ここで意識がある。なぜ今生きているのか、記憶に間違いがあるとも思えない。

そもそもここはいったいどこなのか辺りを見渡す。現実的ではないことが多かったせいで気づかなかったが周りは、殺伐としていた。血のように赤黒い空に、地はやせ細り、川のような所からは赤い水――血が流れている。

周りからは阿鼻叫喚の声が聞こえてくる。

まるで地獄のようなところ――いや地獄なのだろう。

そう考えれば、死んだ者が生きているのも辻妻があうというものだった。

だがまさか地獄に行くとは思いもしていなかった。天国に行けるとも思っていなかったが、地獄が存在していると思わなかったのだ。

それにしても、だ。一体どうやってこんなところに私――緑僧りょくそうを飛ばしたのか。

どうしたものかと、考えていると目に少女の姿が入ってきた。

その少女は、地に這いつくばり苦しそうにもがいている。よく見ると、その少女から血だまりがつくられている。周りには槍をもった小人のような、悪魔のようなものが浮遊し彼女や、その周りの者を槍で突いている。

奇々怪々なその景色に思わず笑みが浮かんでしまう。緑僧はあの時に死んだ。だが、まだここで生きている。首の皮一枚つながったような、まだ生きている実感がこの景色と伴ってやってきたのだ。

ここは地獄、だがそれでいい。地獄なら常軌を逸したものぐらいあるはずなのだから。

考え事をしている。そんな時だった。――丈五十センチ位の槍が緑僧目掛けて飛んできたのは。

飛んできた槍をワザとぶつかるかぶつからないかの位置で避けてみせる。

飛んできた槍はさっき見た、小人のような悪魔のような異形の生命体が放った攻撃だった。

――やるというのか。

ここが地獄というのなら、ここはというわけか。罰を与える、そういう区画なのだろう。


――能力発動。【超重力惑星ブラックホール

右手を突き出し能力を使し、悪魔を巻き込む。それと一緒に周りにいた者共も放った能力に吸い込まれていく。


「――まぁ、いいか」

ため息をついたあと、呟く。

――情報源として後で聞き出そうと思ったのだがな。

巨大な光を吸い込む【超重量惑星ブラックホール】はしばらく前進を進めたあと、吸い込んだものを撒き散らして破裂した。

肉片や、血飛沫が辺りに撒き散らす。異変だったのはここからだった。悪魔は肉片から復活することは無かった。だがある一定の肉片は集合すると肉体を作り出していったのだ。

目を疑った。目を見張るその光景につい笑みが漏れてしまう。

滑稽であり、愉快である光景。死者が生きようともがいている様に見える光景。

それを見、つい笑みが漏れてしまったのだ。

近くで再生を始めた肉塊を踏み潰す。肉片が飛び散り、血が流れ出てくる。

飛び散った肉片と血は不可逆の理に反し、また再生を始めた。想定していた通りだ。

、死してもなを罰を受けさせようと世界の理を変えているのだ。

肉塊がどのように再生するのかも知りたいところだ。

しばらくは再生を見守ることにする。肉塊が集まって中心から骨を作り出し、筋肉を再生する。

一番大きな筋肉から再生し細部を作り出していく。腹部の筋肉が閉まる前内臓を作り出していた。筋肉と同時に再生しているのだろう。

筋肉を完全に作り出した頃、人の形をした異形が形成された。皮膚はなく頭部もない。

次に皮膚を作り出し、色白の皮膚が完成した。体から推測する身長は160センチメートル位だろうか。

そして最後に頭部を作り出していく。首からゆっくりと作り出していき、鼻から下の頭部が完全に作り出された時、一気に脳を、頭部を作り出していった。脳にかかる痛みのダメージを少なくし精神崩壊を防ぐためだろう。

絹のような色白の肌に、一本一本がさらさらとしている腰まである髪に、全ての人を魅了するような蒼玉サファイアの瞳。口の左下に黒子ほくろがついている。

体躯は、豊かな胸部に細いウエストと、完璧のような女性だった。

裸体のままではまずいだろう。そう思い、肩に上着をかける。

と――そんな時だった。一気に息を吹き返したように、荒く呼吸を始めた。

再生途中で空気を、酸素を取り込まなかったのだろう。

ハイライトのない瞳が次第に動き始め、呼吸が整い初めていく。

彼女の顔を見ると、目が合った。緑僧は彼女に柔らかく笑みを浮かべて見せた。

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