特別編「工芸部夏合宿する!」③
※ご案内······本文中のリンクは近況ノートに繋がっています。写真と合わせてお楽しみ下さい♪
「ほら、洋一♪ 漆混ぜ混ぜしといたから♡」
「せんぱい♪ 龍紋と言えばわたしにお任せ♪ ですのでどうぞこっちに♪」
(ちょっとなつめ、ここは師匠のあたしに任せなさい?)
(京都に来るまで手は出さないんじゃなかったですか?)
尾形光琳作、風神雷神図屏風のような構図で椿と蒔絵先輩睨み合う。
違うところと言えば僕が間に立っている事だ。
「洋一モテモテだな」
「やめろ」
後ろのテーブルでは尾形がニヤけ顔で座っている。テーブルには同じ鳴子温泉の特産品の「鳴子こけし」や、鳴子の挽物木地が並んでいる。竜文塗体験に参加しない尾形はそちらに興味津々のようだ。
「え~と、じゃあ説明入ってもいいかな?」
今日お世話になる鳴子漆器職人のショウタさんは苦笑いで、僕は何だか申し訳ない気持ちだ。
竜文塗はいわゆるマーブリング技法、または墨流しとも言われる技法だ。
油性のインクや、灯油など同じく油性の希釈剤で薄めた塗料を水に流すと水面に膜となって浮かぶ。水たまりに油が浮いているとイメージしてもいいかもしれない。
その水の上の膜を棒などで動かすと流れる様な模様になり、これを器物を沈めて写し取るわけだ。
「じゃあ早速、好きな色漆をカップに入れてテレピン油で希釈してみて」
作業台に蒔絵先輩が混ぜ合わせてくれた色漆の入った器が並んでいる。そのなかから僕は朱と緑と黄を選んだ。
※色漆https://kakuyomu.jp/users/nuriyazeze/news/16818093081599396782
「ふふっ♪ 椿カラーですね♪」
と隣から覗き込んで来た椿が何やら上機嫌に言った。
本当はもっと色調整したいところだが今日は体験なので原色で行って、コツを掴んだら部室でもやってみるか、なんて考えた。
「ショウタさん、希釈具合は?」
「あんまり薄いと色が散ってしまうけど、濃いと水に浮かばないからね」
「なるほど、まあやってみて、ですね」
※竜文塗スタートhttps://kakuyomu.jp/users/nuriyazeze/news/16818093081599621801
「ありゃ、せんぱいちょっと薄いですかねぇ?」
「うむ、希釈しすぎたか?」
一回目の漆は水に落とすと、さっと広がってしまい膜が頼りなく見えた。どれどれ、とショウタさんが試作のスプーンを漆の張った水面に潜らせる。
「下地の色が薄ければ大丈夫そうだけど、もう少し濃い目でもいいかもね」
「ほら洋一、どんどん捏ねるから景気よく使いなよー♪」
蒔絵先輩が常盤で新たに漆をこね始めた。景気よく、とか言っているがそれこの工房の漆では······と心配になって横目でショウタさんを伺う。
「いいよ景気よく! それにあまりこの工房で人と作業することないから新鮮だね」
「ショウタさんもそう言ってるし、じゃんじゃん行こ♪」
ほどほどにして下さい、と言いつつ僕は色漆を追加。イメージより気持ち重めの希釈にしてみる。再度水に流してみると······いい感じだ。
「今度はどうだろう?」
「ふふっ♪ ちょっとドキドキしちゃいますね♪」
僕はショウタさんが用意してくれた小皿を水にそっと沈めてみた。角度やスピードは正直まだわからない。こんなものかな? というところで水から上げて見る。
※竜文塗の小皿https://kakuyomu.jp/users/nuriyazeze/news/16818093081599772191
「おおっ!」
「さすがせんぱい♪ いい感じじゃないですか?」
「おーいいね、竜文っぽい!」
僕と椿、ショウタさんとで盛り上がっていると蒔絵先輩と尾形も寄ってきて覗き込む。
「いいじゃんいいじゃん! あたしもやりたいー!」
「え、楽しそう。俺もやってみても?」
蒔絵先輩は漆となれば言わずもがなだが、意外にも尾形の食付きもいい。
「やっぱ『見る』と『やる』とでは違うもんだな」
尾形は自分で試した竜文塗の小皿をまじまじと観察して言った。こういった工芸に対しての貪欲なところはやはり見習うべきところだな、と僕は思う。
その後も昼休憩を挟みながら竜文塗体験を終えた。板の上に僕らの小皿並べられる。
「楽しみですね♪」
「そうだな」
椿の言う楽しみと、僕の言う楽しみが違うものだとは、この時の僕はまだ知らない。
※板に並んだ小皿https://kakuyomu.jp/users/nuriyazeze/news/16818093081599925937
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