特別編「工芸部夏合宿する!」②
※ご案内······本文中のリンクは近況ノートに繋がっています。写真と合わせてお楽しみ下さい♪
「で、なつめと洋一とはどこまで行ったの?」
蒔絵先輩がわたしに聞きました。
鳴子温泉駅から川沿いの国道を山にむかって走行中の軽トラックの中、シートベルトで拘束され逃げ場もありません。
何より蒔絵先輩の逃さないわよーって目ったら!
「せ、先輩とは清きお付き合いをさせて頂いております······」
わたしは観念して答えました。すると蒔絵先輩は驚いたような、でもちょっと嬉しそうな顔をしていました。
「まだ?」
「はい······まだ」
「何も?」
「ええ······何も」
「んふっ。へー、あー、そう♪」
嬉しそう、というのは勘違いかなって思ったんですけど、今あからさまに笑ったし語尾に♪も付いてるし! わたしは思わずムッとしてしまいました。
わたしがむくれていると、蒔絵先輩は国道沿いの建物に軽トラックを進入させます。駐車場の入口に建物の屋根くらいまである大きなこけしが向かい合って立っていました。
「先輩はわたしのか、か、彼氏ですのでっ!」
わたしは蒔絵先輩をちょっと睨んで宣言します。言われた方の蒔絵先輩は余裕って感じで笑っていますが、なんだか目がギラギラしててちょっと怖いです。
「まあ、なつめったらめんこい事! 大丈夫よー別に手出ししないわよー。 ······京都に来るまでは」
「なっ!?」
ううっそうなんです。先輩は来年の春からは蒔絵先輩のいる京都の工芸大学への進学を決めているのです。
これはうかうかしてられません! 今回の夏合宿でもうちょっと先輩とお近づきになりたい。わたしと蒔絵先輩は巨大こけしのように向かい合って目をバチバチさせました!
※巨大こけしhttps://kakuyomu.jp/users/nuriyazeze/news/16818093081537945320
鳴子温泉駅からの急な坂を蒔絵先輩と椿においていかれた僕と尾形。徒歩で鳴子漆器職人のショウタさんの工房へ向かっていた。
駅前の道路は狭く、両側に旅館や漆器店やこけし店が立ち並び僕らはショーウィンドウを眺めながら歩いた。
「こうしてると、デートみたいだな♪」
「いいや、全く、全然、やめろ」
僕が完全否定すると尾形ケタケタと笑った。
最盛期には賑わっただろうメインストリートも閑散としていて、営業中かどうか分からない店舗も多い。
「例えば観光客として、どの店入る?」
駅前の店舗を順々に覗いていると尾形が言った。さっきまで笑っていた尾形だが、職人であり直接販売もする彼は割とこういうところが真面目だ。
「そうだな······」
これは結構難しい質問だな、と思う。扱っているお土産も価格どの店もそんなに変わらないだろう。僕の場合はやはり漆工芸品が見てみたい。しかし売っているものはピンキリなのだ。
地元のベテラン職人が作った工芸品、個人作家が地元の工芸を意識して作ったクラフト品、産地外で作られた完全な工業製品。これらが同じお店に置かれた時、区別がつけられるんだろうか。
「それでもやっぱり見た目のいい店に入ってしまうんだろうな······」
「難しいところだよな。ところでなっちゃんとはどこまで行ったんだ?」
「············は!?」
真面目とか言ってしまったのを返して欲しいところだ。
「あれだ、清き付き合いを······」
「あーあー、やっぱいい。蒔絵先輩に聞けって言われたんだけど聞きたくない」
「お、尾形お前なー」
尾形はニヤけ顔で坂を駆け登りカーブの先で僕を呼んだ。温泉旅館街を見渡す高台にショウタさんの工房、そして蒔絵先輩の軽トラックが停まっていた。
※ショウタさんの工房https://kakuyomu.jp/users/nuriyazeze/news/16818093081538279497
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