特別編「工芸部夏合宿する!」①

※ご案内······本文中のリンクは近況ノートに繋がっています。写真と合わせてお楽しみ下さい♪



 千台箪笥の職人、杉野さんが出店していた催事に顔を出したところ、隣のブースで宮城県は鳴子なるこ温泉が産地「鳴子漆器」の職人さんを紹介された。

 鳴子なるこ鳴湖なるこ、響きは同じだけど······まあ、細かい事は気にせず、漆を嗜む者としては話をお聞きしない手はない。僕はもう従事者も少ない、という鳴子漆器若手の職人さん、ショウタさんと挨拶を交わした。


 鳴子漆器の発祥は諸説あり定かではないが、250年くらい前と言うのが有力だそうだ。藩主の岩出山伊達家が職人を京都に送り、修行させたのが始まりらしい。最初は生活雑器として、後に鉄道が開通すると土産物として発展した。

 そして最盛期、漆芸関係の者にとってバイブルとも言える名著「日本漆工の研究」を記した沢口氏が開発した鳴子漆器の特徴的な塗り「竜文塗りゅうもんぬり」が生まれる。しかし生活様式の変化やプラスティック製品の台頭により、全国の漆器産地と同じ様に衰退の一途、だと言う。


「竜文塗······」

「そう、あんまりやった事ないけど。そう言えば原くんも似たような塗りするんだって?」

「いや、見よう見まねです」


 去年の文化祭、尾形が挽いた木製ペン軸に椿の父親から習った「龍紋塗」を施した事を思い出す。あの時は漆の配合などはまるっきり椿の父親に習ったまま作業したのでまだ習得した、と言う感じはしない。


「良かったら鳴子に来て竜文塗やってみる?」


 ショウタさんから申し出に僕はふたつ返事で飛びついた。



「わー、鳴湖の雰囲気にそっくりです♪」

「匂いまでそっくりだな」


※鳴子温泉駅https://kakuyomu.jp/users/nuriyazeze/news/16818093081478609364


 鳴子温泉駅に降り立った僕の横で鳴湖出身の椿と尾形が声を上げた。僕も同じ意見ではあったが······。


「なんで椿と尾形までいるんだ?」

「せんぱい行くところに椿なつめ在り、です♪」

「ま、敵情視察ってやつだな」


 などと言うふたりは大きな荷物を抱えて準備万端と言った様子。今日の事は軽く話してはいたが、まさか同じ電車に乗っているとは気が付かなかった。そして······。


「洋一こっちこっち♪ 足湯あるわよー♪」

「ま、蒔絵先輩!? いつ京都から帰って!?」

「んー、夏合宿するって聞いて昨日軽トラぶっ飛ばしてきたのよん♪」

「夏合宿!?」


 寝耳に水というやつだった。ショウタさんの工房を訪ね、そのまま鳴子温泉に宿泊し受験勉強の疲れを癒す。そんなまったり一人旅の予定が、いつの間にか工芸部夏合宿に変わっていたのだ。


「バーベキューとか花火とかしましょうね♪」

「なにはともあれ飯だよな」

「洋一、混浴しようよ♡」


 はしゃぐ工芸部員たち(元も含む)とは対照的に、僕は頭を抱えるのであった。



 

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