【御礼♡300】高台寺蒔絵は♡を込めて

(おおー決めてくれたかー)

(オープンキャンパスもあるからおいで)

(待ってるよ♡)


(♡は不要じゃないですか?)


(いいよ、とっときなよ余ってんだから)

(じゃあ工芸展も頑張ってね♡)


 あたしはスマホを作業台の上に放り投げて小さくジャンプする。そん時に足元の常盤を蹴っ飛ばして何かがガチャガチャ散らばったけどあたしは気にしない。


「ぬふふふっ♪ 羊一が京都に来る!!」


 あたしは踊りださんばかりだった。いや実際踊ってんだけどさー。工芸室で一緒に作業してた同期から白い目が向けられ、あたしは「へいへい」と肩を竦めるけど笑いは止まらないわけよ。

 ぬふふふっ♪ 俄然やる気が満ちて来るじゃない? あたしは羊一から連絡が来る直前までやってた作業に戻る。めんこい羊一が京都に来るって喜びがあたしのセンスを更に研ぎ澄まさせるわけだから、この作品は絶対上手く行く! って直感が言ってる。


 あたしが今作ってんのは「乾漆かんしつ」って技法の小さな蓋物だ。乾漆ってのは最初に石膏とかで作りたい物型を作る。そんで、そいつに漆で作った糊で麻布を何枚も貼ってくわけ。漆が乾いたら中の石膏型を砕いて取り除くと漆と麻布だけで出来た器物が出来るって寸法ね。

 奈良時代くらいに中国から入ってきた技法で有名どころだとほら、奈良興福寺の阿修羅像とかがこの技法で作られてんのよー。


 この技法のいいとこは結構自由な形が作れること。あと、こう、ふわっとした形になるとこもあたしの好みよねー。更に布だから軽い。あたしの愛は重いけどねーかっこ笑い。

 んで、今あたしが作ってる形はズバリ「♡」なのよ♪ もちろんあたしん中の有り余ってる♡を込めてるわけ。そう超込めてる。もうLOVE。

 

 貼り重ねた麻布の布目が出ない様に何回も何回も下地をして、何回も何回も研ぎ合わせてもう表面はつるんつるんだし。

 あたしはつるんつるんの表面を撫でながら、羊一の頭をぐわしぐわしと撫でるイメージをする。

 ぬふふふっ♪ 羊一は口では「子供じゃないんで」なんて嫌がる素振りだけど絶対あたしの手を振り払ったりしないんだよねー。なんだったらちょっと耳赤くしてさ、あーめんこい♪

 こんな事思いながら研ぎ合わせたもんだからそりゃつるんつるんなわけよ。


 んで今日はと言うと今回の作品のメイン♪

 赤い顔料と白い顔料を漆で捏ねた色漆「ピンク色漆蒔絵スペシャル」を塗ってくわよー。

 漆の色味合わせは割と難しいんだけどあたしは結構得意なんだよねー。キモは乾燥させる環境作り、あとは顔料と漆の混ぜ合わせ方。

 ほら、新歓の部活紹介でもやったけどさ、これでもかって混ぜ合わせるわけよ。もちろん混ぜ合わせ作業にもあたしは気持ち込めるわよー。

 ひとつ練っては羊一のための、ふたつ練っては羊一LOVEなあたしのため。

 ぬふふふっ♪ おっと、あんまり笑って漆捏ねてると毒薬練ってる魔女みたい、とか言われちゃったからな羊一に。もー、あたしの気持ちも露知らずさー。


 と言うわけで「ピンク色漆蒔絵スペシャル」をサクッと塗るわよー。あたしは「ふっ」とひとつ息を吐いてちょっと目を閉じる。閉じた瞼の裏で眼球を動かしてあたしの中のキラキラを探す。

 あ、ほらあったー♪ あたしの中は羊一とのキラキラでいっぱいだから直ぐ見つかるんだよねー。

 このキラキラを溢さないようにそっと漆刷毛に込めて♡型の蓋に「ピンク色漆蒔絵スペシャル」を乗せる。どうでもいいけど「ピンク色漆蒔絵スペシャル」って長いわね。


 と、ここで作業台の上のスマホがメッセージ着信を伝えてきて。羊一かな〜ん♪ と思って見てみたらなんだ光かー。なになに? 羊一となつめが何だかギクシャクしてる? おっと、これは不味いわね。なんとか羊一となつめには上手く行って欲しい。これは本心なんだ。

 そりゃあたしだってあわよくばって思わなくもないわよ? でも羊一に寂しい思いをさせたくない。あたしは何時もそばにいてあげられないし。羊一にはキラキラした高校生活を送って欲しいの。


 (羊一に集合かけといて)


 あたしは光にこれだけメッセージを送って作業に戻る。光とメッセージをやりとりしてる間に良い具合に塗った色漆が落ち着いたので加飾の仕上げにコレ。じゃん♪ 京都オパール!!

 これは天然オパールと同じ構造を模した人工宝石粉末。本物のオパールみたいにキラキラと虹色に輝くのー。

 そうそう、ベタだけどあたしと羊一のキラキラした日々をこれで表現するわけね、テヘヘ♪


 あたしは、羊一が好き。

 そりゃ最初はただ寂しかっただけかも知んない。羊一とジャレてんのが楽しかっただけかも知んない。でも今は違うんだ。

 だってほら、こんなに離れてたっていつだって羊一の顔を、声を思い出せるんだもん。羊一を思い出すと、いつだって工芸部の部室にあたしは戻れるんだもん。


 あのキラキラした毎日に。


 ······みたいな感じで京都オパールをまだ乾いてない漆に蒔くと、どうよ!!おお、 いい感じじゃん♪

 あたしは羊一への想いをたんまり込めた♡型の器物を漆室にそっとしまった。あとはしっかり乾かして続きねー。

 

 さてんじゃ、その間に本物の羊一の方の仕上げに入りますか。あたしはメッセージアプリを開いて光に最終司令を下す。ぬふふふっ♪ 黒幕みたいでカッコいいわね。


 (光、あんたも工芸展だしなよー)

 (んで)

 (入選した方がなつめに告白するって)

 (ひと芝居打ちなー)


 (マジっすか(笑))


 (マジ♡)


 おっと間違えて光に♡送っちゃったわ。有り余ってるかんなー。まあいっかー。

 さてさてじゃあ羊一、最後の大勝負よー。

 あたしが転がしてんだから絶対上手く行くわよ。頑張って!!

 京都から♡いっぱい送って応援してんからね♪



──おしまい──



 いつも応援ありがとうございます✨

 おかげさまで「前世が漆···」に頂いた♡が累計300達成致しました。本当に感謝しております♪

 と言うわけで感謝を込めまして特別編「【御礼♡300】蒔絵先輩は♡を込めて」をお送りしました〜。

 皆様の応援を励みに益々頑張りますので、今後ともよろしくお願い致します✨


 ぬりや是々


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る