インタールード2

変わったり変わらなかったり

 半年かけて準備した文化祭が終わって、僕らは日常に戻る。

 その日常は文化祭を境に、いくつかの事が変わったり変わらなかったりした。


 茶会の謎の美少女、その他諸々の通り名を得た椿は、まあストレートに言えばとてもモテるようになった。

 同級生は無論、2年生3年生果ては他校の生徒に度々呼び出され告白されているらしい。

 もちろん僕としては気が気ではない。

 そんな僕に椿は毎回律儀に「ちゃんとお断りしましたので」とだけ報告してくれる。

 

 尾形はもう次のイベントの準備に入っており、部室には来ていない。と言ってもクラスメイトでもあるわけで、あれこれ情報交換はよくしている。

 尾形からの話題で一番多く僕に向けられるのは今のところ、やはり椿の事で。

 「羊一、らしいな。そろそろしろよ?」と釘を刺される。

 どこまで聞いていることやら、と思う。


 蒔絵先輩からは毎週のようにアプリでメッセージが届いた。内容はもちろん工芸展のことだ。

 

 (漆は時間かかるから準備早めにねー)

 (期待してるよー)

 (そろそろ決まったかな?)

 (のんびりしてるとあと大変だよ)

 (羊一、まさかね?)

 (絶対忘れないって言ったよねー)


 短いメッセージだが、日を追うごとにプレッシャーが強くなっている気がする。


 僕は、と言えば。

 文化祭まで張り詰めていた緊張感が解け、正直燃え尽きてしまった感があった。

 蒔絵先輩には申し訳ないが、次の目標も特に見つかっていない。

 進路そのものも何も決められないまま、不安を抑えるために夏期講習に参加していた塾にそのまま通うことに。

 今年度の大きな活動が終わった工芸部は自主参加となっていたので、掃除と空気の入れ替え程度で放課後は僕もあまり顔を出していない。

 

 とはいえ、椿と会う時間が少なくなったということはなく。

 いや、僕らは示し合わせて会う時間増やした。

 昼食は毎日一緒に摂っている。中庭や食堂や色々試したが結局部室に落ち着いた。

 塾のある日は一緒に下校したし、ない日は寄り道をした。

 帰ればメッセージをやり取りし、オンラインゲームで対戦し、休日には一緒に博物館や映画にも出かけた。

 何度かお互いの家を行き来もした。

 これまでずっと漆一筋だった生活を埋めるように、僕は椿と一緒にいた。


 それでも僕らはまだ正式に付き合ってはいなかった。

 僕が不甲斐ない、というのが正しいのだろうけれど、僕も椿もこれまでのつかず離れずな、気安い関係を楽しんでいるようにも感じていた。


 いろんな事が変わったり変わらなかったりしたが、僕にとって大きく変わったことがひとつあった。

 

 祖父が亡くなったのだ。

 

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