第24話 幼馴染でしょ?

「さ!続き見よ!続き!」


結局俺の足に挟まってる状態から抜け出し、隣に並んでスマホを眺めるスタイルに変更したあかりが部屋の中に流れた空気を切り替えるように手を鳴らす。

......頑張って目を合わせようとしているのは伝わるが、明らかに焦点が合っていない。


「ホントごめん......」


見るからにいつもと様子の違う幼馴染を見て罪悪感がさらに湧いてくる。


「いやいや!全然いいんだよ!?全然!優人って弟みたいなもんだしさ!」


手をブンブン振りながら否定してくれる......が、目が泳いでいるし幼馴染じゃなくても分かる動揺の仕方を見てさらに申し訳なくなる。


「もう!いつものツッコミしてよ~!優人の方が誕生日先でしょ~?」


肘をぐりぐりと俺に押し付けながらいつもの様なからかう仕草をしてくる。


「ホントに大丈夫だって!ほら!いくらでもどうぞ!」


目を回しながらそう言って俺の胸に倒れこんでくる。

......好きなだけ嗅げ、ということだろうか。

そこで大人しく鼻をスンスンと鳴らすほど俺はおかしくない。


変なテンションになってしまったあかりを咎めればいいのか、あかりなりの精一杯の打開策を受け止めるべきなのか。

考えているうちにも時間は流れ、視界の下にあるあかりの頭がプルプルと震えだす。


「......ごめん、やっぱわすれて?」


零すように俺を見上げながらそう告げたあかりの顔は薄っすらと赤くなっていった。








一旦動画を見ることを諦め、休憩の意味を込めてリビングからお茶を持ってくる。


「おっ、気が利くね~君」

「そりゃどうも」


あえて時間をかけたのが効果的だったのか、見た感じいつものあかりと変わらない。


「その......さっきはゴメン......なんとか動画から意識を逸らせようとして......」

「あ~もう気にしてないって!」


謝罪の言葉を軽く受け止められたことが逆にありがたく、俺もいつもの調子に戻る。


「日向ちゃんと凪咲に優人は匂いフェチだって伝えたらなんか気分がすっきりして!」


満面の笑みでそう伝えてきて、自分の座ってるソファをポンポンと叩く。


「さ!もっかいさっきの体勢しよ?大丈夫!優人が匂いフェチでも嫌いになんてなったりしないよ?私たち幼馴染だもんね?」

「......言ったの?」

「うん」


そういって俺が知らない村井さん、あかり、凪咲の3人で構成されてるトークルームが表示されている画面を見せつけて来る。


{優人はお風呂上がりの髪の匂いが大好きな匂いフェチでした}


しっかりと既読が2ついているそのメッセージは分かりやすくて最悪だった。


{天は二物を与えず。しっかりとイケメンには欠点もつけてくれているということですね!}ー日向

{何のシャンプー使ってるの?}ーなぎさ


しっかりと返信もついているので今更消そうと思っても遅い。

......まぁ、これぐらいの罰で俺の罪が許されるのならマシか......。


「早く続きみよ!優人!」


俺にダメージが入ることを理解していてそれを期待していたのか、満足げな笑みを浮かべながら催促してくる。

ナイトテーブルに飲み物を置き、もう一度さっきの姿勢に戻る。

しっかりと意識を髪以外に逸らしながら......。


そこから特に問題は無く、あかりの「すごーい!」とか「お~、優人カッコいいね~!」とかの感想を聞きながらスマホを一緒に眺める。


......あと、別に画面の中の自分が恥ずかしいセリフを吐いていようと特に気にならなくなった。

先程の空気に比べれば、こちらの方が全然楽に思えたから......。






{これなら......きっと裕也ゆうやさんに......}

{蒼井君、カメラを止めなくてもいいの?}


そんな2人の声が流れて動画は勝手に再生を止めた。


「さて......どうだった?」

「よかったけど......優人、本当に試験に出るんだねぇ」


しみじみとそう呟く幼馴染の前からスマホを退かし、ベッドに軽く放り投げる。


「最初っからそう言ってるだろ......?」

「いや、お父さんの事を嫌いって言ってた優人がわざわざ裕也さんの目の前で舞台に立つなんてまだ信じられてなくてさー」


姿勢を崩し、俺のお腹辺りに頭を乗せながら天井を見つめている。


「中2の時の話か?」

「そうそう。あの時の優人、ず~っとお父さんのこと嫌いって言ってたでしょ?」


確かに、あの頃はずっと嫌いと言っていた気がする。


「まぁ、ちょっと反抗期ってのもあったし、中学生の頭で自分の家庭環境を理解しようとして、禁句だと思ってろくに母さんに詳しい話も聞かずに妄想でストーリーを作った結果、その中で父さんを表現する言葉が嫌いしかなかったんだよ」


今思うと、ドラマの中で父親役をしている父さんの目が俺に向かなかったこと、温かい家庭を築く男として妻を見る人を愛おしく思う眼差しが母さんに向いてなかったこと。

それがなんとなく悔しかったのかもしれないな。

実際は、母さんと父さんは連絡を取っていたし、息子の成長報告もしっかりとしていたらしい。


「この前は深く聞けなかったけど......本当に試験の日に裕也さんと会っても大丈夫なの?」


起き上がって正座をし、真剣な眼差しでそう確認してくる幼馴染は何処までも心配症だ。


「ん~......大丈夫じゃないかもなぁ......」

「えっ!?ど、どうするの?私が代わりに出ようか?あ、でも男の子じゃないとだめなのか......」


少しからかうつもりで暗い表情をしながらそう呟くと、なかなか見られない焦っているマイペースな幼馴染が見られた。

俺は少し笑った後、あかりの頭に手を置く。


「ま、生まれて初めて会うテレビでしか見てない父親に会うのは緊張するけど......」

「けど?」


置かれた俺の手を両手で包みながら上目遣いで見つめてくる目には疑問符が浮かぶ。


「なんかあったら慰めてくれるんだろ?お姉ちゃんが」


少しキョトンとした表情を浮かべた後、満面の笑みを浮かべて俺の胸に飛び込んでくる。


「お姉ちゃんに任せなさい!」


思いっきり飛び込まれたので、俺もソファに全体重を預けるように体勢を崩す。

思ったより強い勢いに苦笑しつつ、胸に飛び込んできた幼馴染の頭を優しく撫でる。


「あ、でも甘えるのはいいけど甘えるちょっと前には連絡してね?」

「なんで?」


......甘えるとは言ってないのだが、そんな反論も消し去るような笑顔を浮かべる幼馴染と目が合う。


「だって、優人の為にお風呂に入らないといけないじゃん?」

「......ありがとう」


ありがたい幼馴染の気遣いに、俺は否定することもなく匂いフェチという称号を受け入れた......








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