第11話 才能のある子
「おかえり。 優人、遅かったわね」
「......ただいま」
丁度お風呂から上がって来た母さんは俺に顔を見せるためだけに出てきたらしく、まだ髪は濡れたままだった。
俺の帰宅を確認すると、またすぐに洗面所へと戻っていく。
料理を温め終え、テーブルの上で手を合わせた時、母さんが洗面所から出てきてリビングのソファに腰かけた。
食べ進める手もそこそこに、母さんに質問してみることにした。
「母さん、俺が一葉に入った事って父さん知ってるの?」
「知ってるわよ? 優人の事で連絡とったりしてるし」
初耳だ。
そもそも一般人の母さんと連絡なんて取るわけがないと勝手に思っていた。
よくよく考えれば父さんは俺達に金銭面で支援してくれているわけだから、気にすることもあるし、それの内容を伝えることだって母さんもするはずだ。
バラエティーや密着番組でカメラを通して見る父さんはとても優しそうだった。
いつかの番組で子供が好きだと言っていたことも記憶に残っている。
色々なことが頭に浮かんできて纏まらない。
もし、俺の想像が正しいとするならば、北城 裕也として水瀬 凪咲に伝えた、才能のある同い年の子と言うのは......。
「何?急に、あ。 別に私から伝えてるんじゃないからね? お父さんがどうしても気になるって言うから教えてるだけだからね?」
俺が普段気にしている血縁関係が世間に露呈する可能性について危惧していると勘違いしたのか、母さんが念のためとでも言うように弁明してくる。
「別に気にしてないよ......父さんからしたらお金を支援してる相手だし、気にするのは当然でしょ」
「なら良かった......あ、でも最近優人の写真送れてないから悲しんでたなぁ......」
「そんなの送ってたの!?」
「どうしても欲しいっていうからねぇ~......やっぱり一人息子が可愛いんじゃない? 子供好きだし。 あの人。 というわけで......」
そう言って母さんがスマホのカメラをこちらに向けてくる。
写真を撮られるのはどちらかと言うと嫌いなので、普段なら抵抗するところなのだが、色々と急に入り込んでくる情報に思考が停止して、うまく体が動かなかった。
今まで父は
だからこそ母さんには気を使って話題に出さない様にしていたし、深く追求するようなことも絶対にしなかった。
家族は俺と母さんの二人だけだと思っていた。
でも実際は違ったらしい。
今の母さんの話を聞く分には父は愛を持っていたようだ。
そして、たった今送られたであろう俺の写真に対し数秒も経たないうちに母さんのスマホが通知を伝えて震えた。
「......父さん?」
「そうそう。 いつも返信早いのよね~優人の事となると」
父が愛を持っていたという事を裏付けるような現象は、俺の脳内をぐるぐると回りながら1つの結論にたどり着こうとしていた。
凪咲が言っていた同い年の才能の持っている子と言うのは俺の可能性がある。
そんな事があれば父さんの勘違いなのは明らかだし、もしそうだったら凪咲になんと伝えればいいのだろう?
俺が幼少期に父さんの演技を食い入るように見ていたことを父さんが知っていたら?
父さんが息子にあらゆる才能があると信じ込むタイプの親だったら?
......ありえなくもない。
「......ごちそうさまでした」
一旦食器を流し台に持っていき、大きく息を吸い込んでみる。
少し冷静......いや、考えることを一旦諦めた脳には少し余裕が出てきた。
スマホでまだ父とやり取りしているのであろう母さんを横目に脱衣所に向かう。
体を動かすことだけに集中し、無心でシャワーを済ませた後湯船につかる。
「そもそも、俺がその人だって確かめる方法は無いわけだしな」
誰に言うでもなく、頭の中の整理の為だけに口に出す。
わざわざ母さんを通じて聞いたところで、凪咲に伝えるべきかどうかも分からなくなる。
よって、俺にできることは何もないわけだ。
そう結論付けて身を包む湯船の温かさに意識を切り替えた。
「もう、お風呂長過ぎよ」
「ちょっと考え事してて......」
案の定切り替えきれなかった俺は、いつの間にかのぼせてしまうほど長時間湯船につかっていたらしい。
「優人? お父さんがそろそろ会いたいだってさ」
「え?ダメじゃないか?」
今会ってしまうと、才能のある子という言葉の真実を確かめないといけなくなってしまうし、そもそも直接会って世間に関係性が露呈してしまう様なミスを俺がしてしまったら流石に父さんにも母さんにも悪い。
「まぁでもいつかは会わないとな......」
先程の父の行動を考えてみれば、一切会わないというのも失礼だし、なんだか可哀そうだ。
いつぐらいなら安全だろうか。
高校生が北城 裕也と会うよりかは成人してからの方がましだろうか。
「ま、どうせプライベートでは会ってくれないだろうって私もお父さんもおもってたわ」
「じゃあ聞くなよ......」
俺が世間にバレることが一番嫌だという事を知っているにもかかわらずそう言ってくる母さんに呆れた溜息をつくと、母さんが耳を疑うようなことを言って来た。
「という事で、お父さん仕事で一葉に行くって! 芸能科の試験で審査員やるらしいわよ?」
......今日はとりあえず寝てしまおう。
脳の思考を止めた俺は、歯を磨くために洗面台に向かった......。
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