第4話 お邪魔します......

「にしても、期待外れだったな~」

「何がだ?」


帰宅途中、登校時の道を引き返しながらあかりが呟く。

ちなみにあかりの家に遊びに行くらしい村井さんは、今も人見知りの猫の様な警戒した眼差しで俺を見ている。いや、睨め付けている。

登校初日にどうやったら家に遊びに行くまで仲良くなれるんだ......。


「いやさ~、アイドル志望だから彼氏作るつもりなんてないけど、やっぱり芸能科ってかっこいい人多そうじゃん?だからちょっと楽しみにしてたんだけどな~」

「私は楽しみじゃなかったです!全然!夢の為に仕方なく芸能科にしましたけど、やっぱり、ちゃらんぽらんそうな人が多かったです!」

「ちゃらんぽらんって......死語だろそれ......」


未だにあかりの陰に隠れつつ様子を窺ってくる彼女は、やはりイケている人に対するヘイトが高いらしく脳内に蘇ってくるのであろう今日のクラスメイトへの憎悪がにじみ出ている。


「で、あかりは何が不満だったんだよ」

「いや、不満って程じゃないけどね?なんか皆思ったより子供っぽいっていうか?まぁ少女漫画みたいな恋が出来なさそうなのが残念......みたいな?」

「というか、幼馴染さんはなんで進学科なんですか?その憎たらしい顔があれば芸能科でも無双できそうなもんですが」

優人ゆうとな、ただ単に興味が無いからだよ。それに勉強はある程度努力してきた自負はあるし、親からもらったDNAだけで生きていくのも俺はあまりやりたくないんだ。」

「まぁ優人のお母さんめっちゃ美人だもんね~」

「へぇ~、じゃあお父さんもさぞかしイケている方なんでしょうね。是非とも見てみたいです」

「あ、優人お父さんいないから見れないよ?」


母さんも俺も父が居ない事は気にしていないことを理解しているあかりはあっけらかんとした様子で伝えるが、その事実を伝えられた村井さんは、先程までしていた俺に対する警戒した表情を解き、一気に眉を下げ申し訳なさそうな表情になる。


「いや、あのその.......確かにイケメンは嫌いですがそういう貶めるというか、馬鹿にするというか、そう言った意図は全くなくて.......」


急にしおらしくなった彼女の態度の落差に思わず笑ってしまう。


「ちょ、何笑ってんですか!本気で申し訳ないと思ってるんですよ?」


そう言って今まで若干開いていた距離を詰め、目を細めた不満そうな表情になる。


「ごめんごめん、いや、別にいいよ。気にしてないし。でも、悪態つくわりには意外としっかりした奴なんだな」

「な、わ、私は女の子を悲しませるイケメンが多いから嫌ってるだけで性根が腐ってるわけではないです!」


小さい体を使って目一杯怒りを表現してくるその姿にまた少し笑いがこみあげてくる。


「なるほど。悪い奴じゃないってことだな」


「よ~し!着いたよ~!」


そんなやり取りを交わしているうちに目的地に到着する。


「うわ~......大きいですね。うち一軒家なのでなんかワクワクします」

「え~?あんま良くないよ?遅刻しそうな時にエレベーター来ないとめっちゃ焦るし」

「生活の一部にエレベーターがあるのってなんかワクワクしますけどね」

「え~?何それ変!ね、優人もそう思うよね」

「まぁ、毎日使うとなると面倒に思う事もあるな」

「そんなものなんですかね?」

「木村さんはなんかエレベーターにワクワクしそうだもんね、見た目的に」

「ちょっと、私の事まだ中学生だと思ってます?」

「いや、小学生ぐらいかな」

「もっとひどい!」

「あ、日向ちゃん、エレベーターのボタン押す?」

「あかりちゃんまで!押しますけど!」


怒りながら勢いよくボタンを押す光景に、思わず二人で笑ってしまう。

怒りというより羞恥からか頬を薄く赤くし、膨らませ不機嫌を表現してくる。

不機嫌とはまた別なのか、しっかり降りる際も自分から開ボタンを押しに行っていた。


「あれ?幼馴染さんも降りるんですか?」

「同じ階だからな......って優人な?なんだよその幼馴染さんって」

「いや.......なんか急に呼び捨てって馴れ馴れしいかなって......」

「別に気にしなくてもいいぞ、優人でいい」

「え~っと.......///」

「あ、優人の上の名前は蒼井あおいだよ!」

「あ、じゃあ蒼井君でお願いします!」


勢いよく苗字を呼ばれることで、間接的に下の名前呼びを強く拒否される。

少し馴れ馴れしすぎただろうか.......初日からこの距離感はやはりあかりのような天性のコミュ力がなければ.......


「もう!優人も気づいてあげなきゃ!日向ちゃんは下の名前で呼ぶのが恥ずかしいんだよ」

「え?でもあかりのことは.......」

「男の子はまた別なんですよ!」

「あーあ、優人、いくら顔が良くてもそんな気遣い出来なきゃ誰も彼女になってなんかくれないよ?」

「余計なお世話だっての......」


「日向ちゃん、ここが私の家!」


俺より手前側にあるあかりの家の前で二人が止まる。


「ほう......ここがあのあかりさんのお宅ですか.......」

「どのあかりさんだよ.......。 じゃ、あかり、また明日な。 村井さんも」

「うん!じゃあね~!」

「あ、どうもでした」


そんな声を受けつつ奥にある自分の部屋に向かって歩き、ドアを開けようとする。


「あ」

「どうしたんですか?」


2人の方向から、そんな会話が聞こえてくる。

別れた以上、ここから先を聞き続けると、あかりに盗み聞きだと言われかねない。

構わずドアを開け、中に入ろうとする。


「あ、優人!」


来ると思わなかった会話のボールを、少し驚きながら受け取る。


「なんだよ?」

「今日お母さんたちいないの忘れちゃってて、鍵も無くて......」

「.......で?」

「家、入れてくれない?」


間抜けすぎる幼馴染に思わずため息が出る。


「わかったよ......」

「あ、えっと......私帰った方が良いですかね?」

「いやいや!寄っていきなよ!わざわざ来てもらったし、優人の家も間取りは一緒だから、実質私の家みたいなもんだよ!」

「なんでお前が許可出すんだよ」

「えっと......いいんですかね?初対面の男の人の家なんて」

「別に全然いいよ。 ここで帰すのも申し訳ないし、遠慮せずに入ってくれた方が俺はありがたいかな」

「じゃあ......お邪魔しようと思います」

「どうぞ」


ドアを開け、2人を中に招きいれドアを閉じると部屋の奥から足音が聞こえてきた。


「お帰り~、あら、あかりちゃんと.......」

「あ、お邪魔します......」

「か、彼女!?」


厄介な人が、家にも一人いた......。

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