第14話 襲撃

 出発日の前日。アオイは王城を訪れていた。ベルクに会うためである。


「ベルク、明日出発するよ。」

「ああ、ダスティスのことを頼む。」

「いや、これは私の、混沌の魔人の娘としてのけじめだから。ダスティスのためじゃないよ…」


 真っ直ぐにベルクの目を見て答えるアオイを見てベルクは応した。


「アオイ、ダスティスもそう思っていると思うぞ。魔国の女王としてのけじめだから、とかな。混沌の魔人とアオイは別の人間だ。混沌の魔人の業を背負うことはない。」

「うん、わかっている…。」

「ところでヒスイはどうだ?」

「やはり私の片割れだと思う。」

 アオイは微笑みながら言った。


「その様子だと良い相棒のようだな。」

「そうだね。苦悩を半分もらってくれると言われたよ。」 


 アオイの答えにベルクは暖かな笑みを見せた。


「その通りだ、アオイ。ヒスイが片割れであるなら尚更だ。ヒスイを頼れ。」

「うん。それじゃあ、行ってくる。今度会う時は晴れやかな顔で来るよ。」

 



 

 その日の夜はアルカディアを誘って王都の近衛騎士団行きつけの飲み屋で酒を飲んだ。アルカディアは終始、アオイを怖がっており、アオイは逆に気を遣っていた。だが、今回の準備に関してアオイもヒスイもアルカディアに感謝していた。


「アルカディア。ありがとう。これは私達からの贈り物だよ。」


 アオイはジャスパの店で買ったシンプルだが上品な銀製のブレスレットをアルカディアに渡した。


「ありがとうございます!家宝にいたします!」


 アルカディアの様子にアオイとヒスイは苦笑しつつ、居酒屋を後にした。アルカディアとは店の前で別れた。


「任務の無事な成功を祈っております!」


 大きな声に見送られながらアオイとヒスイは振り向き、大きく手を振った。


 そして。


「ヒスイ、中央広場から少し入ったところにある橋の上で倒そう。1人変な気配なやつがいる。」

「はい、地の魔法で無力化します。」

「わかった。9人か。こんな少女におおげさだな。」


 アオイは何気ない様子で歩を進め、ヒスイが2歩後ろを歩いた。


「もう直ぐ橋だ。」


 その時、思いがけず4人の人相の悪い酔っ払った男達に声をかけられた。


「そこのかわいいお姉さん。俺達と飲みに行こうよ。ちょっとだけで良いからさー。」

「ヒスイ、私は後ろの嫌な気配のやつを相手する。他のはお願い。」

「おお、俺の相手をしてくれるなんて嬉しいねえ。そっちの姉ちゃんは他の皆の相手か。好きだねー。」

「ヒスイ、行くよ。」


 ヒスイはアオイの掛け声と同時に拳大の石を8個飛ばした。石はくるくるとヒスイの周りを旋回し始めた。


「行け!」


 旋回していた石はヒスイの掛け声で抜刀して迫って来ていた男達の脚を砕いた。


「ぐふ。」


(2人外した!)


 ヒスイは直ぐに矢切を抜くと撃ち漏らした男に上段から切りかかった。男は直ぐに剣でヒスイの剣筋を逸らしたがそれはヒスイの想定の内だった。


(騎士のような戦い方をする?)


 ヒスイは逸らされた刀に余計な力を加えず、刀の軌道だけを修正して男の膝を切った。もう1人の男が槍を構えて突進して来たが魔素を練り、男の足元の石を飛ばして男の顎を砕いた。


「アオイさんは?」


 アオイが相対している男は闇の魔剣を持っていた。


(この間の剣士が持っていたものよりもずっと力は弱いが、嫌な力を感じる魔剣だ。)


「ヒッヒッヒ、この剣があれば俺は無敵なのだ!」


 男は剣を上段の形に構えた。


「お前の魔素をいただく。」


 アオイはそっとため息をつくと虹丸を鞘に納め、居合の形を取った。


「いつでもどうぞ。」


 ヒスイは魔剣の力でアオイの魔素が喰われるのではないかとヒヤッとしたが杞憂だった。

 男が振った魔剣はアオイの魔素を吸い込み始めたかに見えたが、


「な、何なんだ、お前は!」


 アオイが鞘に納めた虹丸が圧倒的な光の魔素を放ち始めた。男の魔剣はアオイの凄まじい量の魔素を吸い込めない。


「ちゃんと受け止めなよ。」


 アオイが虹丸を鞘から抜き放ち、前方に振ると光の濁流が刃となって男に襲いかかった。


「!!」


 光の刃は男の魔剣を粉々に砕き、その高価そうな防具をも砕いていたが男は無傷だった。白目を剥き、気絶していたが…。


「ふふん!わたしの技はどう?ヒスイ!」

「アオイさん、証拠品が粉々ですが…。」


 ヒスイの冷静な一言にアオイは慌てた。


「あ、しまった!力加減を間違えた。」


 2人に声をかけた酔った男達は2人の圧倒的な剣技に恐れをなしていた。4人で固まってブルブルと震えながらあの娘達に声をかけたことを後悔していた。



 

 

 中央広場の近くの橋は騎士団の詰所から200mほどの場所だった。騒ぎを聞きつけて直ぐに警らの騎士が駆けつけてきた。


「直ぐにツクミを呼んで。」


 アオイが駆けつけてきた騎士に告げると騎士は激昂した。


「ツクミとはツクミ団長のことか!呼び捨てとは何という無礼か!」


 アオイは黙って桜紋のパスを突きつけた。


「し、失礼しました!おい、直ぐにツクミ団長に連絡を。」


 ツクミは直ぐにやってきた。そして来て直ぐにアオイに倒された男を見て、


「アオイさんは何をしたのですか?」


 と問うて来た。


「魔剣が粉々ですな。」

「そうなんですよ。アオイさん、やり過ぎです。」

「うっ、ごめんよ。こんなに脆いとは思わなかったんだよ。」

「確かに私が戦った魔剣はもっと強い力を感じました。」

「劣化品だな。でも充分な脅威となる。魔剣が作れるということは闇の使い手がいるということなのか。」

「はい、魔剣を調べれば刻印方法がわかるかもしれません。もしかしたらオリジナルを使って刻印を施しているコピー品かもしれません。」


 自然と皆の目がアオイに集まった。


「だ、だからごめんって。」

「まあ、壊れたものはしかたありませんね。男達の素性はわかりそうですか?戦い方から騎士ではないかと思いました。」

「これから尋問するが時間はかかりそうだな。」

「ツクミ、私達は帰るよ。明日出発だから身体を休めておきたい。旅程のスケジュールはアルカディアが把握している。ああ、そうか。情報部の伝信鳩も使えるね。何かわかったら知らせて。」

「そうですね。畏まりました。後のことは我々にお任せください。」


▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️


お読みいただきありがとうございます!アオイとヒスイをこれからもよろしくお願いします。

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