第13話 アルカディアB級騎士
次の日の昼前に近衛騎士団から若い騎士が訪ねてきた。
「近衛騎士団所属、B級騎士のアルカディア・フォグスローと申します。どうしたのですか?お二人とも…。」
2人が眠りについたのは夜が明けてからだった。眠い目を擦りながら、起きたところにアルカディアが尋ねてきたのだ。
「いや、なんでもないよ。でも早かったね。」
「ツクミ団長から通達があったはずですが?ご覧になられていませんのでしょうか?」
「ヒスイさん、この人、真面目ですよ。」
アオイはこそっとヒスイに耳うちした。
アルカディアは若くしてB級になるほどの有能な騎士であったが、融通の効かない真面目な性格だった。
ヒスイは苦笑しながらアルカディアに向き合った。
「A級騎士のヒスイ・モエギです。こちらがアオイ・コイアイ。
6日後に私達は大森林へ向かい、そこからエルフのゲートを使って魔大陸へ行きます。それまでの旅程スケジュールの作成、必要な資材や旅銀の準備、各諸侯への根回し、紹介状の準備などのお手伝いをお願いしたいです。」
「おおー、ヒスイさん秘書みたい。」
アオイが茶化すのを無視してヒスイは続けた。
「私達の武器を含めた旅装の準備もお願いしたいです。」
「かしこまりました。アオイさまからは何かございますか?」
「うん、私の身分証を用意して欲しい。私のパスは特定の人にしか効果がないことがわかったからね。私の等級はD級でお願いします。」
等級はE級からSS級までが一般的だ。E級が騎士見習い、B級が騎士団の班長クラス、Sクラスで各領主が抱える地方騎士団の団長クラスである。
「おまえ、D級だったのか。しかも身分証を無くしたのか?厳罰もんだぞ!自己管理がなってないからこういうことになるんだ!そもそもだな、パスをなくすなんて…」
「ごほん。アルカディアB級騎士。アオイさんは実際にはD級騎士ではありません。今回の任務はあまり目立ちたくありませんのでカモフラージュのためと理解ください。」
長くなりそうなアルカディアの話をヒスイは途中で遮った。それから、ヒスイはアルカディアに見えないようにアオイへ片目を瞑って見せた。
「あと、この旅程の準備の全てに関しては私達からのお願いではありません。命令ですので誤解なきように。」
「はっ!ヒスイさま、失礼いたしました。諸所畏まりました。」
ヒスイは小声でアオイに耳うちした。
「真面目な騎士にはこの手が効くんです。」
「さすがヒスイさん、やりますな。」
「ところでアオイさま、本当の等級での身分証は必要ではありませんか?」
アルカディアが改めて切り出した。
(まあ、本当の等級はC級か、俺と同じB級くらいだろ。)
アルカディアはアオイに対してちょっと意地悪をして溜飲をさげたかったのだ。
「確かに。アオイさんは実際、等級は何なんですか?」
「私?私はSSS(トリプルS)だよ。」
(はっ!こいつは何を言ってるんだ。)
アルカディアは胡散臭げな視線を送ったがアオイが取り出したパスを見て驚愕した。
「このパスがその証明書なんだけど。」
(六英雄の桜紋!最優先パスじゃないか!そ、それじゃあ、本当にSSS!)
アルカディアは一度、飛び上がってから地面に平伏した。
「こ、こ、これはとんだご無礼を!!!」
「ほらね。このパスは知っている人が見るとこうなるし、、、。実際には知らない人が多いから使い勝手が悪いこともわかったよ。」
「アオイさん、SSSなんですね!」
ヒスイはアオイがSSSと聞いてもそれほど驚かなかった。アオイなら当然という気持ちもあったし、何故か誇らしかった。
「このパスもすごいものだったんですね。」
「一昨日も思ったんだけど、ヒスイはなんで知らないの?騎士なら常識的に知っていると思ってたんだけどなぁ。」
「ふん、私はどうせ田舎者ですよ。田舎にはそんな大層な騎士様は来ないと思って通達してないんじゃないですか?」
拗ねるヒスイの頭を撫でながら、アオイは平伏しているアルカディアに目を向けた。
「アルカディア。やりにくいからそれ、やめてほしいんだけどなぁ。」
◇
それからの数日、ヒスイはとても忙しい日々を過ごした。各諸侯への根回しは近衛騎士団から通達が出ていたので、特に煩わしいことはなかった。特にアルカディアがうまく調整してくれたことが大きかった。
「やっぱり真面目な人はこういうことが得意なんですね!」
ヒスイは感心していた。
しかし、旅程スケジュールの作成と必要な資材の準備には時間がかかった。ヒスイが田舎の出身で旅の経験がほとんどなかったことと、旅慣れているはずのアオイが役に立たなかったためである。
「旅なんて自給自足だよ。ある程度の路銀と着替えがあれば大丈夫!」
とこうである。
旅程スケジュールに関して、辺境の田舎出身であるヒスイは早々に諦めて、こういうことが得意そうなアルカディアに丸投げした。そして資材の調達は嫌がるアオイを引っ張り出して王都の商店を回っていた。
「ヒスイ、王城で騎士団の使っているものを分けてもらおうよ。」
「だって騎士団のもの男臭いんです…。」
近衛騎士団には女性もいるが圧倒的に男性が多い。新品は上級騎士に回ってしまうので騎士団の倉庫には中古の据えた匂いがするものが大半だった。
「それにアオイさんにかわいいものを選んでもらいたいし…。」
アオイはヒスイのちょっと照れたような言い方がとても好ましく思った。
「よし!アオイさんに任せなさい!ほら早く行くよ。」
急に張り切り出したアオイの後を追いながら、ヒスイは充実感を感じていた。
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お読みいただきありがとうございます!アオイとヒスイをこれからもよろしくお願いします。
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