第12話 出会い

 ルークは500年の間、魔法の発展を阻害し続けた。画期的な発明は記録とともに発明者を抹殺した。

 強い国家が現れると紛争の種を蒔き、弱体化を図った。そして今、彼はアスラ王国の王都にいた。この国の内情を探り、紛争の種を蒔くために。


 アスラ王国は発展していた。ルークが許容できないほどに。大量の物資で溢れ、人々の顔も明るい。だが、それは破滅と表裏一体であることをルークは知っていた。


(魔大陸を完全に封じ、魔国の住民をアスラ王国に導くのが良かろう。そうすれば戦が起きる。)


 その時、ルークは強い魔素を感じた。


(これほどの魔素を持つものがいるのか。)


 ルークはこの強い魔素に興味を持った。どんな人物なのか?顔を見てやろうと思った。


(少女?)


 そこには多くの衛兵に囲まれた少女がいた。周りには幾人もの衛兵が倒れ、少女は心底怯えていた。

 

「大人しくしろ!怖くないから!」

「やだー。来ないで!」


 その声とともに少女を捕まえようとしていた衛兵が吹き飛ばされた。


「魔素の暴走か。」


 特に珍しいことではない。成長期に魔素が暴走し、コントロール出来ない魔素が漏れ出ることは珍しいことではない。

 その結末は自滅。興味の失せたルークが立ち去ろうとした時、少女がルークの方へ顔を向けた。


「ミレイ!」


 ルークはそこにミレイを見た。いや、ミレイよりも幼いが間違いなくミレイだった。

 ルークは重力場を作りだすと少女を捉えようとしていた衛兵をその場に抑えつけた。それから少女の元へゆっくりと歩み寄った。


「少女、私と一緒に来るか?」


 少女は怯えていた。


「私なら魔素の暴走を抑えてあげられる。」


 少女は頷くとゆっくりと手を差し出した。


「名は?」

「アオイ。」


 アオイは孤児として生まれ、修道院で10年間暮らした。生まれながらに魔素が強かったのだが、修道院に魔法を教えることのできるものがいなく、成長するにつれて自分の魔素をコントロール出来なくなっていた。

 ある日、アオイは魔素を暴走させ、修道院を破壊してしまう。


(このままでは修道女さん達を傷つけてしまう。)


 自分の力が怖くなったアオイは修道院を飛び出した。アオイはこの力が疎ましかった。誰も傷つけたくないのに。何物も壊したくないのに。

 そしてあの日、アオイは衛兵に声を掛けられ、恐怖のあまりに力を暴走させてしまった。


「これから私が魔法を教えてあげよう。」


 アオイにとってそれは夢のような時間だった。ルークは父親として教師として望ましかったのだ。優しく、時には厳しく接し、アオイを導いたのだ。アオイも自分の成長を喜んでくれるルークを好ましく感じていた。なにより、


(この力をきちんと使えるようになりたい。)


 もう修道院で力を暴走させた時のようなことは起こしたくなかった。

 アオイはルークから魔法の真髄を教わり、至高の剣技を習った。アオイは強かった。生まれながらの才能もあっただろう。13歳にしてSS級の騎士にも見劣りしないまでに成長した。

 そして…。

 




「ある時、ルークが500年もの間、世界のバランスを取るために魔法の発展を阻害し、紛争の種を蒔き続けている事を知った。

 あの優しいルークが世界を混乱に導いていることを。悩んだ。悩んで悩んで悩んで。

 私はベルク達に協力した。混沌の魔人を倒すために。」


 アオイは絞り出すように言った。その声は震えていた。ヒスイはアオイの肩をそっと抱き寄せた。


「アオイさん。アオイさんの苦悩は私に半分ください。アオイさんが苦しくても泣くことを我慢しているなら、私が代わりに泣いてあげます。

 アオイさんが悩んでいるなら私も一緒に悩みます。なのでこれからは1人で背負わないでください。」

「ヒスイ、ありがとう。」


 アオイもそっとヒスイの背中に手を回した。


「楽しいことも嬉しいこともこれからは一緒です。」


「アオイさんはこれからどうするつもりなんですか?」

「私はルークが500年前に施した魔大陸の結界を解きたい。スガル平地の呪いは眠っているだけなんだ。

 根本となる結界を壊さないと魔大陸は解放されない。私は混沌の魔人の娘として魔大陸を解放したい。」

「わかりました。私も微力ながらお手伝いさせてください。」

「ありがとう、ヒスイ。」


 アオイにはヒスイにまだ言えていない事があった。


(ヒスイには全てを話すよ。だからもう少しだけ待っていて。)

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