第15話 出立
次の日、2人は朝早く日の出前に起き出し、旅装を整えていた。アオイは紺色の短パンに白いシャツ、魔装の胸当をつけて腰に2本の刀を差していた。その上から黒いジャケットを羽織る。ヒスイはグレーの短パンに白いシャツ、魔装の胸当をつけて腰に魔刀を差した。上にはアオイとお揃いのジャケットを羽織った。
「よし、王城に荷物を受け取りに行こう!」
王城の正門前にはアルカディアが待っていた。
「こちらへどうぞ。」
正門をくぐると王宮に続く途中の広場に2匹のガモウ鳥がいた。ガモウ鳥は長距離の移動の際に兵士や商人がよく使う大きな飛べない鳥である。その力は強く、大人2人を乗せて長時間の走行にも耐えられた。
2匹のガモウ鳥には荷物が括り付けてあり、沓も装着されていた。
「荷物の詳細はこちらに記載してありますのでご確認ください。それとダスティス女王への親書と各諸侯への指示書、アオイ様の身分証です。」
「アルカディア、ありがとう。」
アオイは身分証のパスがD級になっていることを確認してアルカディアに礼を言った。
「それじゃあ、行ってくるね。」
「アオイさま、ヒスイさん少々お待ちください。」
アルカディアが必死の形相でガモウ鳥を抑えた。
「まだ何かあるの?」
「アオイ、我にも見送りさせてくれ。」
振り返るとベルク国王とツクミ団長が歩み寄ってきるところだった。
「朝早くから2人ともありがとう!」
「これは2人に選別だ。王家に伝わる古代の宝剣だ。」
ベルクはそう言うと2本の短刀をアオイとヒスイへ手渡した。
「本当は2本を持ち使うようだが…。2人に1本ずつだ。魔素を込めるとミスリルも両断できる。2人の無事の帰還を待っている!」
「アオイさん、ヒスイ、無事な帰還を待ってます。」
「うん、行ってくるよ。」
「いってきます。」
ブレス歴506年春、アオイとヒスイは魔大陸へと旅立った。己の宿命を解き放つために。
◇
ブレス歴506年春、王都近郊
「ヒスイ、このまま街道沿いにバールミン侯爵領までだね!」
アオイとヒスイは2匹のガモウ鳥に跨り、街道を進んでいた。
「はい、10日ほどで関所に着くはずです。」
「天気が良くて気持ちが良いね。このままだと夕方にはベンネル村に着いちゃいそうだね。」
初日の旅程は順調だった。予定よりも少し早く最初の宿場であるベンネル村に着き、こぢんまりとした大浴場付きの宿も確保した。アスラ王国では程度に差はあるが風呂付き、酒場付きという宿が一般的だった。2人はガモウ鳥から降りると宿の隣の家畜小屋へガモウ鳥を連れていった。
「ご苦労さま。」
ヒスイは羽を優しく撫でた。
「明日もよろしくね。」
宿には小規模な商隊が数組宿泊しており、何やら食堂で情報交換をしていた。
「俺達はバールミン領まで魔石を運んでいるんだ。王都の港に魔国から質の良いのが届くから、それを買い付けて商売している。」
「バールミン領には性能の良い魔道具を作る工房がたくさんあるからなぁ。でも気をつけた方が良いぜ。最近、バールミン領の森林地帯に賊がでるって噂だ。何組か、商隊がやられたと聞いている。護衛はいるのかい?」
「ああ、使い手を2人雇っているよ。」
アオイとヒスイは聞こえてくる会話に耳をそば立てていた。
「賊ねぇ。使い手の2人って彼らかな?」
「そうみたいですね。」
アオイの視線の先には15歳くらいの男が2人いた。
「ありゃダメだね。」
「私もそう思います。」
使い手なのは間違い無いのだが1人は魔素が乱れており、コントロールが下手なのが見ただけでわかるし、もう1人は剣を操るにしては所作が隙だらけだった。
「私、不思議なんです。アオイさんは一見すると彼らより隙だらけです。一体、どういうんです?」
「ふふん、強者が身につける極意ってやつよ。」
「茶化すならもういいです。」
膨れるヒスイをなだめながらアオイは言った。
「賊の話も気になるし、村もみたいから商館に行ってみようよ。」
「甘いものを奢ってくれるなら行きます。」
アオイはヒスイの手を取って立ち上がった。
「しょうがないなあ、よしアオイさんが奢ってあげるよ。」
商館は小さな建物だった。王都が近いから換金や情報の提示も必要最低限であるらしい。賊の情報も無かった。
「でも商隊の生の情報は侮れないからなぁ。旅程中は気をつけることにしよう。美味しいお菓子を売っているお店も教えてもらったし、お菓子を買って宿に戻ったらお風呂に入ってご飯にしよう。」
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