第10話 不安と宿命と
「ジャスパ、虹丸の様子はどう?」
アオイとヒスイはジャスパの店へ虹丸を受け取りに来ていた。
「アオイさん、やっぱり師匠はすごいです。俺に任せてくれて感謝します。」
アオイはジャスパが持ってきた虹丸を受け取り、鞘から静かに抜いた。その刀身は虹色の光を放っていた。虹丸はジンライが作り出し、六英雄がそれぞれの魔素を刻印した魔刀だった。火水風地光の魔素が刻印された稀有な魔刀。その力は膨大だがその扱いは精緻な魔素のコントロールが必要だった。
「うん、ありがとう!思った以上の出来だ!」
「アオイさんに言われると嬉しいですね。おや、ヒスイさんが持っているのは?」
「ああ、矢切だ。」
ヒスイは鞘から矢切を抜くとジャスパにその刀身を見せた。
「あの時見た矢切と何ひとつ変わっていない。これをヒスイさんが使うのか。本当にアオイさんの相棒なんだな。」
ヒスイは改めて手に持った矢切を見た。
「はい、ちゃんと矢切を使いこなせるようになります。」
ヒスイの目は潤んでいた。
◇
夜は気まぐれ屋で食事をした。今日は牛のモモ肉をワインで煮込んだ濃厚なシチューと数種類のハーブとハムを合わせた爽やかなサラダだった。シチューにはバゲットが添えられていた。相変わらず美味しい食事に2人は満足していた。ちょっとだけ、ワインを飲みながらヒスイは不安を口にしていた。
「アオイさん、私はどうなってしまったのでしょう?
私はスガル平地へ伝令兵として参戦しました。あの時、スガル平地を闇が覆い、音が聞こえ無くなって私はとても怖かったんです。
何も考えられず、座り込んで頭を抱えることしかできなかった。そして唐突に闇が晴れた時、私は魔軍に囲まれていたんです。
必死でした。必死になって魔素を練り、剣を振るいました。でも力尽きた。
もう殺されると思った時に"あれ"が起こったんです。」
ヒスイはアオイの顔を見つめた。
「闇と光の粒子の乱舞。きれいだった。私がどうやっても手の届かない力の乱舞。あの時から私は強くなりたいと思うようになりました。
でも、あの時の闇の粒子が私の中にある?巫女?そんな大それた力など私にはありません。
正直、信じられないです。私はどうなってしまうのでしょう?」
アオイはヒスイの目を覗きこんだ。ヒスイはアオイの何でも見透かしてしまいそうなその視線が眩しくて目を逸らしてしまった。
「ヒスイが努力したのはすごく良くわかるよ。ヒスイの歳でそれほどに魔素をコントロールできて、剣術にも隙がない騎士を私は知らない。」
「でも、私はアオイさんよりもあの闇の剣士よりもずっと弱い…。」
「いや、ヒスイは強いよ。騎士としても人としても。そして、今度の旅でもっと強くなる。
私はヒスイが私の相棒で本当に良かったと感謝しているんだ。
それにね、私もヒスイの力になりたいと心底思っている。私は突っ走しちゃう性格だから逆に迷惑かけるかもしれないけど。」
「アオイさん、ありがとう。安心したら酔いが回って来ちゃいました。」
弱音を吐いたことを誤魔化すように笑ったヒスイにアオイは微笑みかけた。
「それじゃあ、家に帰ろうか。ヒスイには私のことも知ってもらいたいけど、ここで話すには過激な内容だから。」
◇
2人で家へ戻ると倉庫にはヒスイの荷物が届いていた。と言ってもそんなに量は無い。本が数冊と着替え、それと食器などの小物がある程度だった。
「ヒスイはジンライが本当に好きなんだね。」
アオイは数冊の本が全てジンライに関するものであることに少し呆れながら言った。
「はい、大好きです。」
「…。あんなにデリカシーの無いやつがねぇ…」
「え?何ですか?」
「いやいや、何でもないよ。今日は遅いから片付けは明日にして、お風呂に入って休もう。」
◇
風呂に交代で入ってから寝着に着替えて休む準備を終えた後だった。
「ヒスイ、話をさせてもらっても良いかな?」
「はい、お願いします。」
アオイはヒスイと自分の分のはちみつ入りホットミルクをソファの前のテーブルに置いた。
「楽しい話じゃないんだけどね。」
2人でソファに腰掛けるとアオイがぽつぽつと話はじめた。
「これは混沌の魔人と私の話。ヒスイには知っておいてほしいんだ。」
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お読みいただきありがとうございます!アオイとヒスイをこれからもよろしくお願いします。
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