第9話 私と勝負してみない?
「それではアオイさん、明日近衛騎士団から団員を行かせますので。何なりとお使いください。ヒスイ、君にも出来るだけの援護をする。まあ、アオイさんと一緒なら身の安全は保証できるが。」
「うん、わかったよ。ヒスイのこともこれからの魔大陸のことも。ダスティスとちゃんと話をするよ。任せて。」
「アオイさんの"任せて"は心強いけど無理はしないでください。アオイさん、混沌の魔人のことになると無茶するから…。」
ツクミの言葉にアオイは静かに首を振った。
「私は混沌の魔人が嵌めた枷を解き放たなければならない。これは私のくびきだから。」
「ヒスイ。君も重い宿命を背負ったことはわかっている。わかっていてお願いをする。アオイさんの力になってあげてほしい。」
ツクミは深々とヒスイへ頭を下げた。ツクミの言葉はとても重く、ヒスイの胸に響いた。
「はい、微力ながら。」
「それとね、アオイさん。情報部から定期連絡をするので、ちょっと血をちょうだい。」
「えーー。嫌だよ。痛いの嫌いだし。」
「そんなこと言わないで。手を出して。」
アオイは顔を背けながら、きつく目を瞑っていた。
「痛くしないでね。もう、終わった??」
「これからです。刀を振り回して血だらけになることもあるのに、何がそんなに嫌なんですか?」
「何でって。わかってて傷付けるの嫌じゃない。だから医者は苦手だ。」
「はい、終わったよ。ヒーリングしとくね。」
アオイの傷は跡も残らずにすぐに癒えた。
「これで連絡用にアオイさんまで伝信鳩を飛ばせるわ。」
アオイは嬉しそうなアマノを恨めしそうな目で見ていた。
「次はヒスイさんもお願いね。」
「ところでアオイさん、今日はこれから予定はありますか?もし、時間があるようなら近衛騎士団のメンバーを紹介したいのですが。」
アオイはニヤっと笑って言った。
「うん、それは今度の機会に。今日はこれから近衛騎士団の演習場を貸して欲しいんだけど大丈夫?」
「それは構いませんが…。」
「ヒスイ、私と勝負してみない?」
◇
演習場にはツクミとアマノ、フルセニアが立ち会っていた。
「アマノさん、これはどういう立会いなのですか?」
「ふふふ、きっと驚くわよ…」
彼らの視線の先にはアオイとヒスイが刀を構えていた。ヒスイはベルクから下賜された魔刀を抜き、上段に構えた。
(何てすごい刀なんだろう。何でも切れそうな気がしてしまう。)
ヒスイは矢切に感動を覚えていた。顔が自然と緩んでしまった。
「ヒスイ、私は手加減しないよ。」
(いかんいかん。)
アオイの言葉にヒスイは気を引き締めなおし、矢切を構え直した。
対するアオイは訓練用の剣を左手に握っていたが、その構えは隙だらけだった。
(やっぱりアオイさんからは全然、力を感じない。でも打ち込むのが怖い。)
「ヒスイ、魔法も見せて。」
「はい、しかし良いのですか?」
「うん?ああ、大丈夫だよ。」
「じゃあ、行きます。」
ヒスイは魔素を練る。そして地面に魔素を込めると無数の小石がアオイに襲いかかった。
「おお、すごいね。」
アオイは右手を前方に向けると魔素を放った。レジストと言われるこの魔法技術は自分の魔素を展開して魔法攻撃を防ぐ。一種の防壁である。レジストは高度な技術であり、C級以上の力量が必要と言われている。
使い手はレジストするために受けた攻撃以上の魔素を使う。そのため、守りに専念すると魔素の展開に手一杯となり、隙ができる。
ヒスイの作戦は小石を無数に飛ばすことでアオイをレジストに専念させることだった。
(今だ!)
ヒスイはレジストに"専念"しているアオイに走りよると矢切で切り上げた。だが、ヒスイの下段から切り上げた渾身の一撃はアオイが持つ訓練用の剣で弾きとばされた。矢切はヒスイの手を離れて宙を舞い、地面へ突き刺さった。
「今、どうやったのですか?」
「ヒスイの刀を光の魔素で弾き飛ばした。」
簡単に言うアオイの言葉をヒスイは信じられない思いだった。
(だってアオイさんはレジストに手一杯だったはず。私の剣戟をレジストしながら弾くなんて…。)
「ヒスイには闇の魔素が宿っている。ヒスイ、同じ攻撃をもう一回やってみて。ただし、今度は闇の魔素を込めてみよう。」
ヒスイは困惑した。
「闇の魔素、ですか?」
「そうだ。要はイメージだ。地の魔素を闇の魔素で包み込んでみて。小石を闇の魔素が覆っていくことをイメージするんだ。」
ヒスイはスガル平地で見た闇の魔素を思い出していた。あの優しい粒子を。ヒスイは闇の粒子が地の魔素を帯びた小石を包み込むイメージをしながら、魔素を練った。
「行きます!」
ヒスイが放った小石の濁流はアオイに向かっていく。ヒスイは自分が込めた地の魔素が闇の魔素に覆われて発散していないことに気づいた。
(そうか。威力が分散しないのか。)
アオイが先程と同じようにレジストする。そして、ヒスイがアオイに駆け寄って下段から切り上げた矢切はアオイの剣に防がれるがヒスイの手から離れることは無かった。
「うん、ちゃんと矢切にも闇の魔素が乗っていたね。後は少しずつ慣れて行けば良いよ。」
アオイが握っていた剣はその根本から折れていた。
フルセニアは二人の立会いに驚いていた。
(ヒスイの魔素の扱いはA級騎士に相応しい。剣技も申し分ない。何より、あの魔刀の力がヒスイに馴染んでいる。
それよりだ!あのアオイという少女は何者なんだ。魔素量も剣の腕も段違いだ。)
「アオイさん、久しぶりに私にも稽古をつけてくれませんか?」
ツクミの申し出にフルセニアは驚愕した。
(団長が『稽古をつけてください』だと!いやいや、そんな事があるか??)
「ツクミ。良いけど手加減しないよ。」
「はい、よろしくお願いします。」
アオイは折れてしまった剣を傍に置いた。
「ヒスイ、矢切を貸してもらえるかな?」
アオイはヒスイから矢切を受けとると鞘から抜き、両手で構えた。ヒスイはその姿を見て肌が泡立った。
(つ、強い!アオイさんはとてつもなく強い。)
「では行きます。」
ツクミは剣を抜くと光の魔素を刀身に纏わせてアオイへと肉薄した。その速さに見学していた3人は息を呑んだ。誰もがアオイの負けを疑わないツクミ渾身の一撃だった。だが、
「!」
ツクミの水平に振られ、魔素も充分に乗った一撃はアオイの矢切にいとも簡単に防がれた。
「これを防ぐか!!」
ツクミは二撃目を加えようとしたが、アオイはバックステップでツクミから距離を取り、ツクミの間合いを外した。そして、右手に魔素を込める。
「ちゃんと受け止めてね。」
アオイは右手の魔素を光の弾丸としてツクミへ放つ。ツクミも信じられない反応速度を持ってその光の弾丸を剣で切り裂いた。
「くっ!」
その瞬間、光の弾丸ははじけ、明るい光を放った。一瞬、ツクミは視界を奪われる。
「はい、残念!!」
アオイはその一瞬の隙にツクミの後ろへ周りこむと首元へ矢切を突きつけた。
「参りました。」
ツクミの敗北宣言に皆、信じられない気持ちだった。
(ツ、ツクミ団長がいとも簡単に…あの少女は何なんだ…)
フルセニアは目の前で起こった事が信じられなかった。フルセニアは隣のアマノにどういうことか説明してほしいと訴えかけたが、
「そんなの、言えるわけないじゃない。」
相手にしてもらえなかった。また一つフルセニアの苦悩が増えてしまった。
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お読みいただきありがとうございます!アオイとヒスイをこれからもよろしくお願いします。
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