第8話 A級への叙任とアオイの素性

「頭痛い…。」


 気がつくとヒスイはアオイの部屋のベッドで寝ていた。


(昨日は気まぐれ屋のお客さん達と意気投合して飲み過ぎたんだ。あー、頭痛い…。)


 隣には下着で寝転がっているアオイがいた。


(アオイさんもあんなに飲むから…。)


 ふとヒスイは大事なことを思い出した。


「アオイさん、起きて!王城に行かなきゃ!」

「王城?今度にしようよ。頭痛いし、気持ち悪い…。」

「そうはいきません。お願いアオイさん、起きて!!」


 ヒスイは渋々起きたアオイにヒーリングをかけてもらった。


(本当にすごい!二日酔いが治っちゃった…。)


 アオイも自分でヒーリングをかけたようだった。先ほどとは打って変わって、すっきりした顔をしていた。


「よし、着替えてすぐに出発しよう!なんたって遅刻しそうだからね!」


 ヒスイは空色のパンツに上着、アオイは黒の短パンに白いシャツを着てた。その上からジャスパの店で買った魔装を身につけた。アオイは紺色、ヒスイは淡い緑色の色違いの魔装。そして、お揃いのジャンバーを羽織ると腰に帯刀して急いで家を出た。

 今回は門兵もすんなりと二人を通した。アオイを見て怯えていた様だったが二人は気にしない。正門をくぐると若い近衛騎士が二人を待っていた。


「ツクミ団長よりお二人のご案内を仰せつかっております。こちらへどうぞ。」


 二人は近衛騎士にとても丁寧な物腰で対応された。王城の長い廊下を歩きながら、ヒスイはその豪華な装飾に感動していた。


「アオイさんは王城に詳しいんですか?」

「まあ、迷子にならないくらいにはね。」


 若い騎士に案内されたのは国王との謁見の間だった。


(えっ、謁見の間?なんで?)


 ヒスイは完全に怖気ずいていたが、アオイは平然としていた。若い騎士は謁見の間の扉の前に立つと、


「アオイ・コイアイ様、ヒスイ・モエギB級騎士をお連れしました。」


 大きな声で叫んだ。すると扉は内側からゆっくりと開いた。そしてヒスイはその中の様子に再び驚愕した。上級近衛騎士が両側に列を作って立ち並び、敬礼していた。その奥には上席の文官が揃っていた。一番奥には一段高くなった王座があり、ベルク国王が座っていた。ベルク国王の隣にはツクミ近衛団長とサジタリアス宰相が立ち並んでいる。


(これではまるで叙任式じゃないか!)


 ヒスイはあまりの光景に唖然としたが隣のアオイは平然としていた。


「ヒスイ・モエギB級騎士、こちらへ。」

「ヒスイ、ほら。」


 ヒスイはアオイに則されてベルクの前に進み出た。


「ヒスイ・モエギ、A級騎士へ任じる。情報部特別班所属とし、使者として魔国への渡航を命じる。諸侯には目的の達成のために最優先で協力することを義務付ける。」


(A級?魔国への使者?どうなってるの?)


「ヒスイ・モエギA級騎士、前へ。」


 ヒスイがさらにベルクの前へ進み出るとツクミが一本の刀をベルクへ渡した。


「この魔刀、矢切雷光を下賜する。」


 ベルクは矢切を鞘から抜き、刀身を確かめると再び鞘に納め、ヒスイへと手渡した。


「はい、ありがとうございます。」


 ヒスイはベルクから魔刀を受け取り、そのまま捧げ持った。

 

(矢切…。ジンライ様の刀…)


「魔国への使者の件、仔細はツクミ近衛団長から指示を受けよ。」


 そう言うとベルクは謁見の間を後にした。


「これにて解散とする。」


 サジタリアス宰相の言葉で居並んだ文官、騎士達が場を後にした。


「アオイさんとヒスイはこちらに。」


 ツクミに誘われてアオイとヒスイは別室へと移動した。




 

 そこにはアマノ女医も同席していた。


「何でアマノさんもいるの?」

「だって私はアオイさんの上司ですから。」


 澄ました顔のアマノを一瞥してからアオイは視線をツクミへ向けた。


「ツクミ、ベルクにお礼を言っておいて。これで私達は行動しやすくなる。」

「はい、陛下もそうお考えです。さて、今回の件だが。」

「六英雄は魔大陸で混沌の魔神を倒し、魔大陸に施された呪いを解放したはずだった。しかし、実際にはスガル平地の呪いは強固に魔大陸を蝕み続けた。だが、3年前に魔軍とアスラ連合軍が衝突した際に一人の戦士によって呪いは解放された。」

「はい、私も一兵卒としてあの戦場にいました。」

「あの呪いは…、解呪されたが破壊されたわけではない。復活する可能性がある。具体的には強い力を持つ闇の使い手の魔素を媒介とすること。」

「でもその様なことを企む輩がいるのですか?」

「混沌の魔団。目的は…。」

「目的は"世界に秩序"を与えないこと。宗教みたいなものなんだ。秩序を得た世界は力に満ち、その力で滅ぶと信じているんだ。」


 アオイは苦渋に満ちた表情を浮かべ、絞り出すように言った。


「でも、強い力を持つ闇の使い手などいるのですか?闇の使い手がいるという話を聞いたことがありません。」

「闇の使い手はいる。現に私は4人知っている。だけど"巫女"、混沌の魔団は呪いを復活させるほどの力を持つ闇の使い手をそう呼ぶんだけど。」


 アオイは言葉を続けた。


「ヒスイが巫女となる可能性がある。」


 ヒスイはブエノスと名乗った剣士の言葉を思い出していた。


「『闇を感じる。巫女の資格を持つに値するか?』」


 その時は気にも留めなかったが…。


「どういうことですか?」

「ヒスイはおそらくスガル平地で闇の使い手、呪いを解呪じた戦士が放った魔素を取り込んだんだと思う。いや、同化したんだ。」


(ああ、スガル平地で見た戦士は闇の使い手だったのか。)


 ヒスイはスガル平地での光景を思い出していた。


「でも、そんな事…。ありえますか?」

「原因はわからない。しかし事実なんだ。ヒスイはあの時スガル平地で闇の魔素を取り込んだ。だから先日の戦闘で、あの魔剣に対抗できた。

 闇の力には"闇"と"光"の力を同時に打つけることが有効なんだ。あの魔剣にヒスイが対抗できたことがヒスイの中に闇の力があることの証明だよ。」


 アオイはゆっくりと右手でヒスイの肩に触れた。


「ヒスイが巫女なのか?はわからない。でも私達は混沌の魔団に対抗する必要がある。それに…。」


 アオイは言葉を選びながら言った。


「闇の使い手は魔大陸を解放する鍵にもなり得る。」

 


「2人には魔大陸に渡ってダスティス女王にベルク国王からの親書を渡してもらいたい。」


 ツクミは言葉を繋いだ。


「内容は魔大陸の解放について。出発は1週間後。準備は近衛騎士団が全面的に協力する。」

「あなた達との旅程中の連絡は情報部が管轄します。諸侯への根回しは近衛騎士団がやるけど、民間の商会や傭兵団への協力依頼は情報部で行います。」

「あれだけ大々的に"矢切雷光"をヒスイに渡してA級に任じたんだから、諸侯も協力せざるを得ないものね。その動き方で諸侯の腹も探れる…。」

「はい、諸侯の中には魔国が力を持つことを不安視する勢力もありますから。情報部としては諸侯の思惑を知りたい。」


(そう言うことだったのか…。)


 ヒスイは自分を中心に事が大きく動いている事実に戦慄していた。


「それに。混沌の魔団はヒスイを狙ってくるだろうし、ヒスイが魔大陸解放の鍵になる可能性があるとわかるとヒスイを害しようとする輩が現れるかも知れない。」


 ツクミの言葉にヒスイは大きく頷いた。


「しかし、私の力で使命を果たせますでしょうか…。」

「ヒスイの魔素量は多い。闇の魔素の使い方を学べばさらに強くなる。それにヒスイがもらった魔刀、矢切雷光はヒスイの力になってくれると思うよ。」


 ヒスイはずっと握りしめていた矢切をみた。


「アオイさんが使っていたジンライ様の刀…。」

「それとね…。」


 アオイは大きく息を吸うと言葉を紡いだ。


「大森林に"竜の魔装"を受け取りに行く。魔大陸には大森林から"エルフのゲート"を使って渡る。ヒスイにはジンライの傑作である竜の魔装を使いこなせるようになってもらいたいんだ。地と闇の使い手であるヒスイにしかできないことだ。」


 ヒスイは噂だけ聞いたことがあった。その拳は地を割り、その咆哮は海を割り、その装甲はあらゆる攻撃を防ぐという…。


「皆さんの期待に応えられるように頑張ります。でも、一つだけ教えてください。アオイさんは何者なんですか?ベルク陛下の隠し子というのは無しです!」


 ヒスイはアオイの目を真っ直ぐに見ながら問うた。ツクミはアオイが答えるのを止めようとしたが、アオイはそれを遮って答えた。


「私は…、混沌の魔人の娘だ…。」


▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️


お読みいただきありがとうございます!アオイとヒスイをこれからもよろしくお願いします。

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