第3話 王都にて

王都

 

ブレス歴506年春 アスラ王国王都

 

 ヒスイは数日間、まどろんでいた。意識があるようで無い、夢の中のような状態。


(マルシムが泣いている。どこか痛くしたのかな。ジルバ班長はひどい顔だな。しかも傷だらけだ。B級で班長のくせに傷が痛くて泣くなんて根性がない。)


 朦朧とした意識の中でヒスイはぼんやりと周囲を見渡していた。だが、意識はまた暗闇に沈んでいく。


「しばらくは安静よ。」


 優しい声が聞こえたような気がしたが意識が混濁したヒスイは返事ができなかった。

 


 

 

元気な女性の声が聞こえてきた。


「大丈夫!様子を見るだけだから!」

「アオイさん、ダメ!困ります。まだ意識が朦朧としているんですから!」


(ここはどこだろう?私は何をしている?)


 ヒスイの意識は段々と覚醒してきていた。知らない天井、知らない壁。少しずつだが記憶が戻ってきた。


(私は魔素が尽きて、意識をなくしたんだ。そして…。フルセニア副団長に連れ出されて…。)


 ヒスイはがばっと起き上がり、直ぐ隣で押し問答をしていた二人に声をかけた。


「ここはどこですか?何日、私は寝ていた?」

「あらあら、アオイさんが煩いから目が覚めてしまいましたね。」

「ちょっと、煩いってどういうこと?」


 アオイを無視して、女医はヒスイへ状況を説明した。


「ヒスイさんがこちらに運ばれてから一週間、戦闘から10日経っています。お身体の具合はどうですか?」

「はい、まだ頭が重いですが大丈夫です。ここはどこでしょうか?」

「ここは王都の情報部が管轄する病院です。」


 ヒスイは急に不安になった。王都?情報部?いつの間に?


「王都?ここは王都なんですか?」

「こちら手紙をお預かりしてます。」

「あ、ありがとうございます。」


 ヒスイは女医から3通の手紙を受け取った。ヒスイはアオイと呼ばれていたもう一人の女性を気にしながら、手紙の封を切って中を確認した。


「配属命令書、ベルク陛下のお名前で!!」


 女性はなぜかドヤ顔でヒスイのことを見下ろしていた。


「情報部アオイ班への配属を命ずる。」

「私がアオイです。アオイ・コイアイ。歳は20歳。これからよろしくね。」

 

 アオイが歳を答えた時、女医は怪訝な顔をしていたがヒスイにはそれを訝しる余裕はなかった。

 アオイはヒスイよりも少し背が低かった。スレンダーというよりも筋肉質な引き締まった身体をしている。整った顔だちをしており、親しみを感じさせる可愛らしさがある。ボブにまとめた髪が活発な印象を与えた。だが、その所作は隙だらけで強い感じはしなかった。


「ど、どういうことですか?」

「そのまんまなんだけど、マーズ伯爵からの手紙に詳細が書かれてない?」


 慌ててヒスイはマーズ伯爵からの手紙に目を通した。そこにはマーズ伯爵がヒスイの身を案じていること、マーズ騎士団の皆、特にヒスイ班の皆が別れの挨拶ができなかったことを悔やんでいること、そしてヒスイはベルク陛下から直々の命令で王都へ移されたことが書かれていた。


「詳しくはアオイさんに聞けとありますが…」


 不安気なヒスイへアオイは静かに語りかけた。


「ヒスイはとても厄介な人物と戦って生き残ったんだ。そこから得られた情報も膨大だ。追々話していくが、事は世界の動向に影響する内容だと私は思っている。そんなヒスイにはこれから私と一緒に混沌の魔団と戦ってほしい。」

「混沌の魔団。あの盗賊団の背後にその魔団がいたことは聞いています。あの戦闘にどんな意味があったのですか?私はあの剣士に全然敵いませんでした。」

「いや、あの魔剣に2つの魔法をぶつけることを思いついただけでもすごいことだと思うよ。とにかく呼び出しもされているんでしょ。」


 ヒスイは言われてもう1通の手紙がツクミ近衛団長からの事情聴取のための呼び出しであることに気がついた。


「2日後に王城への呼び出しだよね。私も同席します。混沌の魔団についての詳しい話はその時にあると思う。」


 アオイはそう言うと、女医へ向き合った。


「ヒスイ、こちらはアマノ・ミツルギ女医。情報部の将校です。」

「これから長い付き合いになると思います。アマノです。よろしくね、ヒスイさん。」

「はい、よろしくお願いします。」


(情報部で長い付き合いか…。)


 ヒスイは戸惑ったように答えた。


「アマノさん、ヒスイはもう10日もご飯食べて無いんだよ。もうこんな辛気臭いところは退院で良いよね。」

「辛気臭いって…。ダメよ。ヒーリングをかけていたからといっても体調は万全じゃ無いんだから。」


 アオイはふらっとヒスイに近寄ると手を額に当てた。ぼぉっとアオイの手が発光してヒスイは身体の怠さが抜けて行くのを感じた。それと同時にものすごい空腹感に襲われた。


「すごい…。」


 ヒスイはこんなにも強力なヒーリングを受けたことはなかった。


「アマノさん、すっごい睡眠魔法をかけたでしょ。解呪に結構な魔素を使ったよ。」


 ヒスイには覚えがあった。深い眠りに着く前に、


(優しい声を聞いたっけ。)


「身体が怠かったのはアマノさんの睡眠魔法のせいだよ。私が睡眠魔法を解呪して、ヒーリングをかけたからもう大丈夫。私の家に行こう。」

「でも。」

「あーー。アオイさんはしょうがないですね。報告しときますけど、あまり無理させないでね。」


▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️


お読みいただきありがとうございます!アオイとヒスイをこれからもよろしくお願いします。

★や『フォロー』をいただけるととても嬉しいです。

気に入っていただけましたら是非、評価の程をよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る